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海辺の開拓村編

22.俺だけ知らない人の話題で盛り上がられる(1)

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「やっぱり、おかしいんですかね?」

「まさかとは思うが、ヤスヒト殿とサクヤ殿も同じようなことができるのか?」

 どうですかねぇ、と俺は腕組みして思い返す。

「ヤス君は、そもそも攻撃術をあまり使いませんから、分かりませんね。でも、サクちゃんは昨日やり方を教えたら、その場で使えるようになってましたんで、多分、ヤス君も使えるかと」

「頭が痛くなってきた。これほどの使い手がまだ二人……」

「そ、そんなになっちゃうほどですか?」

「こいつは心配性なところがあるからなぁ」

 リンドウさんは、頭を抱えたスズランさんを顎で示しながら言った。それから俺に向き直ると、眉を下げた笑みを作って言葉を続けた。

「ユーゴ、わしらが驚いたんは、お前が無属性転移術を用いたからや」

「へ? 転移術?」

 思いもよらない言葉に呆けてしまう。リンドウさんが苦笑する。

「やっぱり知らんかったか。まぁ、知らんでも不思議はないわな。わしらも敢えて、術についての常識を教えてこんかったからな」

 その理由は常識という枠組みを取り払うことにあった。と、リンドウさんが続ける。スズランさんいわく、提案したのはリンドウさんらしい。

 この世界に生まれた者は、生まれながらに術で可能なことの限界を感覚という形で備えており、並大抵のことではその壁を破れないのだとか。

 渡り人であっても、常識を知ってしまえば、似たような状態になってしまう。

 できることと、できないことが明確化すると、できないことには挑みもしなくなる。それどころか、意識の埒外らちがいに追いやり、考えもしなくなってしまう。

「そんなん、ユーゴたちかてつまらんやろ?」

 当たり前を疑ってぶち壊すのが新入社員の仕事だと、上司が言っていたことを思い出す。無知であるのもまた力。環境に慣れると見えなくなるものがある。

 リンドウさんはド素人の発想から生まれる新たな技術に期待したということだろう。

 スズランさんが、重々しい溜め息を吐く。

「拙者は反対したのだ。術は知識あってのもの。それを与えないのは術の成長を妨げ、ユーゴ殿たちを危険に晒してしまう可能性があるとな」

「それが、フタを開けてみたら別の心配をせなアカンくらいに成長しとるもんやから、スズランはこうして頭を抱えとるっちゅう訳や」

「当たり前だ! ギーのような前例もあるんだぞ!」

 急にスズランさんが怒鳴り声を上げたので、俺の心臓と肩が跳ね上がった。

 場が静まり返る。

 びっ、くりしたー……。

 心臓が大変なことになっている。確実に寿命に影響あっただろこれ。
 
 
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