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海辺の開拓村編
21.物凄く真剣なときほど周りの声がよく聞こえる(3)
しおりを挟む「お手上げや。まるで仕組みが分からん」
「そうか、お前でもか」
「お前でもて、わし水属性持ってないからな。これはお前の領分やろ」
スズランさんが的を見て、指で触れ、額に指を当ててかぶりを振る。
「【水球】は飽くまで【水球】だ。当てる前に氷に変えることはやろうと思えばできるが、的に水を掛けて、すべてを一瞬で凍らせるというのは不可能だ。もはや神業だ」
「一旦、魔力の縁が切れてもうたら、繋ぎ直すまで魔力干渉できんからな。飛び散った水全部を、魔力送れるように繋ぎ直すとか、普通に考えて無理やしな」
二人が話し込んでいる間に、的の周りに一家が集まり、物珍しそうにそれぞれ的や氷の確認を始める。
「本当に、氷ですね」
「キラキラしてるのです」
「むぅ、謎なのじゃ」
「ユーゴ、降参や。仕組みを教えてもらえるか?」
「ええ、喜んで」
俺は皆のところに行き【過冷却水球】の説明をした。
途中、俺の汗に気づいたサツキ君が手拭いを渡してくれた。ありがとうと言うと、当然ですと言わんばかりに、への字口で軽く頷く。
気遣いができて偉いねと、シラセの二人とスミレさんに口々に褒められ、頭を撫でられる様が微笑ましい。
当人は顔を真っ赤にして恥ずかしそうにしているが、されるがままで我慢しているところがまたサツキ君らしい。
「はぁ? 水が氷に変わる温度になっても、水のままで留める? なんやそれ」
「ユーゴ殿、おかしなことを言わないでくれ。水が氷に成るときを逸するなど、ある訳がなかろう。教えたくないのなら正直に言ってくれ」
スズランさんが呆れたように言ったので、俺は手の平サイズの【過冷却水球】を作り、さっきと同じように薄い【障壁】で包んで覆う。
「これは今、水の状態ですけど、温度は氷のものです。試しに、軽く手で触れてみてください。あ、凍りませんから大丈夫ですよ。見ての通り【障壁】があるので」
スズランさんが「では」と一言発し躊躇せずに触れる。その表情が、見る間に驚愕の色に染め上がる。
「信じられん……。凍りつくような冷たさだ。これは既に氷ではないのか?」
「いえ、水です」
俺は証明の為に【過冷却水球】の【障壁】を消し、指で弾く。途端にパキパキと音を発しながら水球が歪な氷塊へと変化していく。
「刺激が氷結の引き金か!」
合点がいったという具合に手を叩くリンドウさん。俺は術で生み出した全ての氷を消し「御名答です」と笑って頷く。リンドウさんは「なるほどなぁ」と腕組みして、何度もうんうんと頷いてから言葉を続けた。
「つまり、凍らせるんやのうて、刺激で自ずから凍る水を生み出しとるんやな。ほんで、対象に当たるまでの間は刺激が入らんように【障壁】で密封してある、と」
「そうです。ただ【障壁】で覆っても飛ばしたときに刺激が入るので、それを完全に打ち消す為に、結構な魔力を消費してるんですよ」
「そら、これだけの術や。燃費が悪くても不思議はないわな。十分使えるやろ」
「んー、燃費が悪いというだけなら問題にしないんですけど、操作に多大な集中力も必要なので、こういった使い方はほとんどしませんね」
「なんや、別の使い方があるんか?」
「はい。俺は普段、こんな感じで使ってます」
言いながら、俺は的の上に手のひらサイズの【過冷却水球】を生み出して落とす。
水がパシャッと軽い音をたてて飛散し、辺りに氷の粒を撒き散らす。
的の側にいたシラセの二人とスミレさんがきゃあきゃあ楽しそうな声を上げて飛び退く。
マモリの二人は目が点になったが、すぐに額に手を当てて具合が悪そうな顔をした。
「すまん、ユーゴ殿、拙者、頭から煙が出そうなのだが」
「わしもや。まったく、何を見せよるんや」
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