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海辺の開拓村編
19.物凄く真剣なときほど周りの声がよく聞こえる(1)
しおりを挟むリンドウ邸に着くと、リンドウさんが一家全員を呼び出した。そして再開の挨拶もそこそこに、俺は皆に術を披露する運びになった。
それも、まずは攻撃術を。
「ユーゴ殿たちは、ここで鍛錬していたときも驚かせてくれたからな。どの程度やるようになったか興味がある」
「私もです。勿論、サツキもよね?」
スミレさんに訊かれ、サツキ君が頷く。真っ直ぐな眼差しが眩しい。相変わらずとても良い子だ。
挨拶のとき、深々と頭を下げた後で少しだけ挙動不審だったのは、ヤス君のことを探していたからだろう。
俺に気を遣い、がっかりした様子は見せなかったものの、表情に僅かな寂しさは滲み出ていた。
ウイナちゃんに至っては、挨拶前から寂しげだった。探知で俺一人しかいないことを察していたのだと思う。
サクちゃんに逢いたいという気持ちが伝わってきて、つい感傷的になる。二人の我慢する姿がいじらしく、内面中年の俺は罪悪感めいたものに苛まれる。
サツキ君とウイナちゃんに悪いことしたなぁ。皆で来れば良かったなぁ。
後悔。そして緊張。
苦笑しながら、緊張をほぐす為に深呼吸する。
わざわざ的まで用意してもらったのだ。何の成長もしていないと落胆させるつもりは毛頭ない。驚嘆させてみせる。
気負いがあると自覚。複雑に乱れた心を落ち着かせる為に目を閉じる。
驕るな。
変わっているとか、おかしいとか、それを特別の言い換えだと気づいている自分に言い聞かせる。
自分なんて、大した者じゃない。ここにいる人たちは、一瞬で俺を殺すことができる力を持っている。
ゴブリンにすら殺されるところだった。そんな俺が、勘違いしてはいけない。
肉体が若返ったからか、或いは、無自覚の鬱積があったからか。
承認欲求、いや、ここまでくると自己顕示欲と言っても過言ではないものが胸の内にある。それが煩わしい。そして恥ずかしい。
真剣に心と向き合うと、それだけで身悶えそうになる。
何様だ、俺は。消せないにしても、今は邪魔だ。
集中しろ。集中しなければ、この術が望んだ形で的に届くことは絶対にない。
距離は約十五メートル。近いようで遠い。二十メートルだったら絶対に届かない確信がある。この距離ならギリギリ維持できる……気がする。
イメージは海。駄目だ。あのときの海は波立っていた。
違う。落ち着け。遡れ。
必要なのは、凪だ。
心の海が凪ぐ。そんなイメージ。そうだ、この旅の始まり。
部屋の、水面――。
「いきます」
俺は目を開く。今ならやれる。
手の平に【過冷却水球】を浮かべ、魔力を注いで顔ぐらいの大きさに膨らます。
「水球、か?」
「ほぉ、留めて膨らますか」
「思ったより普通なのじゃ。らしくないのじゃ」
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