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海辺の開拓村編
17.千年の恋も冷める娘に嫌われる父のような臭い(1)
しおりを挟むゴブリンの処理が済み――。
再び街道に出た俺は、リンドウ邸を去ったときに森を抜けた位置まで走り続けた。下手に森を歩いて迷うよりはそこから入り直した方が良いと踏んだ訳だ。到着後は休憩。しっかりと息を整えてから祈りの森に入った。
それにしても臭い。
俺は体に染みついたゴブリン臭が取れなくて困っていた。
休憩中、水球に両手を突っ込んで擦り合わせて洗ったが、何度繰り返しても臭いが取れなかった。
それで、現在も歩きながらの手指洗浄を続けているのだが、臭いが落ちたという実感が得られず段々と不安になってきていた。
これ、鼻の奥に臭いが染みついてるんじゃないか?
もし本当にそうだとしたら、どれだけ手を洗おうが意味がない。
となると、まずは鼻を洗浄するところから始めるべきか。
そう思ったところで結界を越えたのが分かった。どうして今まで気づかなかったのか不思議に思うほどに空気が変わったのを感じた。
そして、気配。
俺の拙い探知が生物の気配を捉えた。この結界は魔物と悪心持つ者を阻む。
ということは――。
「ユーゴ!」
木陰からサイネちゃんが飛び出し、俺を見るなり駆けてくる。表情がすごく嬉しそうで、こっちまで嬉しくなる。
「サイネちゃん!」
俺は受け止めようと両手を開いた。が、五メートルほど先でサイネちゃんが立ち止まり、眉根を寄せて鼻を覆った。
「え……ユーゴ?」
信じられないものを見たかのような表情で言われた。
「誰や誰や! この千年の恋も冷めるような臭い撒き散らす阿呆は!」
声を荒げながらリンドウさんが姿を現す。そして俺を確認するなりサイネちゃんと同じ仕草と表情を見せて硬直する。
「え……? なんや、お前、肥溜めにでも落ちたんか?」
「違いますよ!」
リンドウさんが鉄扇を開き、顔に向けて扇ぎながら可笑しそうに笑う。
「冗談や。大方、ゴブリンとでも遊んだんやろ」
「えぇ、失敗でした。物凄く後悔してます」
「せやろな。まぁ、立ち話もなんや、行くぞ」
リンドウさんとサイネちゃんに先導されて歩く。サイネちゃんはリンドウさんと手を繋ぎ、チラチラと不安げな視線を俺に寄越してくる。
俺が笑顔で手を振ると花が咲くように笑った。多分、俺の気分を害したかもしれないと思い心配だったのだろう。
「リンドウさん」
「んー、なんや?」
「悪臭を消す術とかってあります?」
「せやなぁ、光術で【浄化】があるな。不浄を消してくれるけど、わしもサイネも光属性持ってないから使えへんぞ」
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