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海辺の開拓村編

14.相手が子供でも棍棒で殴られたらそりゃ折れる(2)

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 背筋が寒くなるな。う、吐き気も。あー、痛いなぁ。

 腕を折った経験があったことが唯一の救い。もしこれが最初だったら激痛や骨折後の体の異変で取り乱し、冷静な判断力を失っていたかもしれない。人生、何が幸いするか分からないものだと思う。

 ゴブリンは三匹。前方で広がり、左右の二匹が俺を囲む隙を狙っている。

 くそー、あからさまだなー。

 連携を取る知能はある。だがそれを隠す程には賢くない。

 そういった強がりのような捉え方をしたものの、怪我を負った状態では、馬鹿正直にじわじわ迫られる方が怖ろしい。いや、怪我をしていなくても怖い。なるほどそうか。俺は何の意味もないことを考えていたのか。

 ふざけてる場合じゃない。呆けているとあっという間に袋叩きにされるぞこりゃ。

 吐き気と震えが走る体を無理やり動かし牽制に努める。ゴブリンを目で威嚇しつつ、じりじりと後ろへ退く。ゴブリンも距離を詰めてくるので、間合いは変わらない。いつ新たなゴブリンが現れるかも分からない。

 このままだとジリ貧、だが――。
 
 あー、練習しておいて良かったー。

 俺は後退しながら右腕に回復術を掛けていた。光属性を得てから、自分の擦り傷や体の痛みを相手に毎日欠かさず練習を重ねていたのだ。

 だがそれだけではこう容易たやすく回復させることはできなかっただろう。というのも、その頃はまだいまいち成長の実感が得られていなかったからだ。

 俺の回復術が急激に成長したのは魚を使い出してから。生きた魚の骨を折ったり身を切ったり諸々試し、回復しなければ美味しく頂いた。

 もっともそれは懐が温かくなってからの話。時期にするとカキ氷屋を初めて一週間ほど経った頃。

 やはり魚は高級品、生けにいるのは安いものでも一匹銀貨五枚もする。バカスカ殺して食べていたらお金があっという間に底を着く。

 なので、なるべく殺さないように、ちまちま傷つけては治して腕を磨かせてもらった。

 先日、フィルにマッドだと言わしめたのは、その所業が原因だったりする。

 フィルが言うには、俺の回復術はおかしいらしい。傷はともかく、骨折は本来、骨の位置をきちんと合わせてやらないと歪むとのこと。

 そして無詠唱。どうやっているのか訊かれたが、俺に分かる訳もない。

 ただ痛みが引いて体が元の状態に戻るようにイメージしているだけなのだ。

 脳内麻薬とか筋繊維とか言われてもそんな小難しいことなど一切考えていないので他に伝えようがない。

 医学知識も術の知識もまるでないのだから訊かれても困る。

 ちょっと面倒臭く思う程にはしつこく質問されたので「痛いの痛いの飛んでけーと心で唱えている」と嘘を教えておいたが、やっているのだろうか。

 物凄く気になるから帰ったら訊いてみよう。そしてやってたら謝ろう。悪戯にしてはたちが悪いと自覚。これは本気で怒られそう。

 余計なことまで振り返ってしまった気がするが警戒は怠っていない。練習に使った魚の尊い犠牲に感謝しながら、右手を開いたり閉じたりして調子を確かめる。

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