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海辺の開拓村編

1.スパイキークラブ物語(1)

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 翌日早朝。リンドウさん一家の住む神社に向かうなら、ついでに近くの依頼でも受けようということになり、朝食を済ませてすぐに冒険者ギルドへ。

 ところがはたと気づく。森の名前が分からない。先日何かがあったのか上機嫌のミチルさんにお願いして地図を確認。街から東にある街道南にある森を示す。

 そこで、あの森が祈りの森と呼ばれていることが発覚。悪心を持っている者が入ると迷い、祈って悔い改めると出てこれるとミチルさんから説明を受ける。

 リンドウ邸出身にも拘らず、ミチルさんは結界の存在を知らないようだった。

 考えてみれば、俺も結界の存在に気づいたヤス君が一緒でなければ、敢えて知らされることがなかったかもしれない。これは十分にあり得る話だ。

 ミチルさんも俺と同じく鈍感で気づけなかったのだと覚ると急に親近感が湧いたが、神聖な森で暮らしたという思い込みを壊すのは悪いので、実際はリンドウさん作の悪辣あくらつな結界が張ってあるという事実は黙っておくことにした。

 アイアン階級の自分たちでもできる依頼が祈りの森の近辺で出ていないかを訊くと、旅程の途中にある漁村の宿で変わった依頼が出されているという。

「ただ、報酬は結果次第なんですけどね」

 依頼人は人魚亭のビルさんという方。内容は宿の名物料理の提案と調理。

 俺は一斉にパーティーメンバーからの視線を受ける。圧が凄い。これは責任重大案件と理解。

「頑張ります」

「うむ、良きにはからえ」

 何様だフィル。

「それと、こちらも」

 ミチルさんがギラリと目を光らせてもう一枚の依頼書を出す。

 ん? これノービスランクの依頼だぞ?

 同じ漁村の村長からの依頼で、害虫駆除というもの。対象はスパイキークラブ。こちらは一匹につき銅貨一枚とある。

「クラブってコレ?」

 俺は両手でピースサインを作り、顔の横で二本の指を開閉する。

「クラブって言うからにはそうじゃない?」

「はい、多分。私、こっちに来てから一年以上経つんですけど、食べてないんですよ。魚市場にもないし、すぐ近くに海もあるのに、ずっと不思議だったんです」

「害虫って書いてありますもんね。甲殻類だしそう思われても不思議はないか」

「ミチルさん、多分って言いましたけど、このスパイキークラブってやつ、もしかして見たことないんすか?」

 ヤス君の質問に、ミチルさんが申し訳無さそうに肩を落とす。

「すいません、ないんです。受諾した職員も知らないみたいで、少し不安ではあるんですが、網を鋏で切られるという話ですし、名前もそのままトゲトゲしたアレを連想させられたので、皆さんなら抵抗なく対処できるかな、と」

「うーん、受けても良いんじゃないか? 一匹駆除するごとに銅貨一枚で、網にも被害が出るってことは、それなりのサイズで数はそこまでじゃないだろうし」

「まぁ、ノルマもないみたいですし、やめても失敗扱いにならないんなら、受けた方がお得っすよね。アレだったらそのまま次の依頼にも活用できますし。料理はユーゴさん任せっすけど」

「それは良いんだけど、食材として使えるかは疑問だよね。毒があるかもしれないし、食用に適さない大きさかもしれないし」
 
 
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