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宿場町~裏社会編

45.裏社会へようこそ(7)

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 少しの沈黙の後で、サイガさんが口を開いた。

「あいつらは、田舎から出てきたお人好し共でな。騙されやすいもんで、昔っから目を掛けていたんだが、ここ何年か伸び悩んで思い詰めてた。変な気を起こす前に、組に入ったらどうかと誘いを掛けていたんだが」

 それが一年ほど前のこと。半年前には、表情が明るくなり、絶好調だと言っていたという。

 それが今日、繁華街を見回りに出て、喧嘩騒ぎを見掛けて仲裁に入ったところ、暴れていたのはノッゾさんとそのパーティだった。

「俺のことも分かりゃしねぇほど半狂乱になってたもんで、仕方ねぇから力任せに押さえつけたんだが、目の前で魔物に変わりやがってな。呆気にとられてる間に尻尾の毒針をブスリとやられた。焼きが回ったもんだ。けどな、んなこたぁどうだっていい。人が魔物に転じるなんてのは、魔素溜まりに触れでもしねぇ限り起こらねぇ。こいつはとんでもねぇことが起きようとしてるのかもしれねぇな」

 サイガさんは構成員に声を掛け、領主のエドワードさんに伝えに行くように言い、魔物に変わった冒険者パーティについての情報収集をシャフトさんに命じた。シャフトさんはレインさんに声を掛け、転移で姿を消した。

「しかし助かったぜ。ユーゴも大したもんだが、お前ぇらが戦ってる間、この小っこいフィル坊が俺を守り通してくれたんだからな」

 俺たちが戦闘中、サイガさんは刺客に襲われていたらしい。フィルが回復術を行使したまま【風壁】を張り、投げナイフによる暗殺を阻止。のみならず、射線に【風刃】を撃ち返し、衛兵による暗殺者の捕縛に貢献までしていたことが判明。

 もっとも、暗殺者は捕らえられた時点で自害したそうだが。

「犯人の目星はついてるんですか?」

「ふん、大方ドグマ組の連中が騒ぎに乗じて、どさくさ紛れに俺を殺そうとしたんだろうよ。まぁ、何にせよ、助かった。ありがとよ、フィル坊」

「いえ、僕は大したことしてないです」

「へっへー、ほらな、連れてきて良かったろ?」

 何故かナッシュが誇らしげにして、場が和む。

「なぁ、親父。こいつらを――」

 サイガさんがナッシュの言葉を手で制し、溜め息を吐く。

「ナッシュよ、お前ぇが言いてぇのは、二人を組員にどうかってことなんだろうが、この二人にゃその気はねぇよ」

 え? とナッシュが驚いた顔で俺を見る。ヒューガさんが溜め息を零す。

「馬鹿野郎。さっきうちの組でも俺がそう言っただろう。そもそもナッシュ、お前、二人に組員になりたいかどうかを聞いたのか?」

 あ、そうだ。と、ナッシュが頭を掻く横でクロエが呆れたように肩を竦める。

「いやー、でもよぉ、冒険者と違って食いっぱぐれる心配もねぇし、良い話だと思うんだけどなぁ。ドグマ組も絡んでるんなら尚の事入った方がいいと思うぜ?」

「ブッハハハハ、ナッシュ、先輩面してぇのかもしれねぇが、お前ぇが心配するようなこたぁ何もねぇんだよ。なぁ、カキ氷屋さんよぉ」

 いたずらっぽく言うサイガさん。フィルと俺は顔を見合わせて苦笑する。

「知ってらしたんですね」

「おうよ。たまげたぜ。ウチの者に真似できねぇかやらせてみたが、誰もできやしねぇ。技術もそうだが味もだ。すんなり消えちまうのに、舌にはまったり濃厚な味が残る。それでクドくねぇってんだからな。いやぁ大したもんだぜまったく」

 類似品売ってたのアンタんとこかい。

「カキ氷? え……っと、どういうことっすか?」

「あんたは……ほんっとに馬鹿ね。まだ分かんないのかい? フィルとユーゴはお金持ちってことだよ。依頼を受けなくてもいいくらい稼いでるんだから」

「は……。嘘だろ……?」

「そういや、あのカキ氷、もう売らないのかい? 閉店したって聞いたけど、嘘だよね。アタシはまだまだ食べたりないんだけど」

 ポカンとするナッシュ、詰め寄るクロエさん、苦笑するヒューガさん。

「ありゃあ美味かった。エディの野郎も虜になってやがったからなぁ。二つも食ってんじゃねぇやなぁ。俺もだけどなぁ」

 豪快に笑うサイガさんの前で、三者三様の表情を見せるヒューガ組の面々。

 おかしい。こんな和やかな雰囲気になるような一日じゃなかったはずだ。

 そう思う俺がおかしいのかなぁ?

 なにはともあれ、クロエさんにカキ氷屋閉店の件について納得してもらうのは骨が折れた。
 
 
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