【完結】蓬莱の鏡〜若返ったおっさんが異世界転移して狐人に救われてから色々とありまして〜

月城 亜希人

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宿場町~裏社会編

44.裏社会へようこそ(6)

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 衛兵の聴取、組員への指示、血と臓物まみれにした店への詫びなど諸々済んでの夕方――。

 サイガさんの事務所に連れられて行き、まずは紹介を受けた。組長サイガさん、若頭シャフトさん、その補佐レインさん。

 俺たちも軽く紹介された後で、サイガさんが襲われた経緯について話してくれた。が、そこで俺は耳を疑う。

「すいません、今、何て?」

「ああ、お前ぇも知り合いだったか。まぁ、あいつはお節介だったからな。そういう反応になっても仕方ねぇ。だがな、いいか、俺もそう何遍も言いたかねぇから今度はしっかり聞いとけ。あの魔物はな、ノッゾのパーティーだ。グールがミルリナ、アバスマーがイゴール、ノッゾがマンティコアだ」

 ノッゾという名前が出た。イゴール、ミルリナも。声を掛けられたばかりだったが、良い人たちだった。

 魔物になった? ノッゾさんたちが?

 魔物の姿を振り返る。符合しない。記憶の中にある姿は人ではない。顔形に似たところがあれば少しは気づけたはずだが、面影の一つも感じられない。

 だが、グールが着ていた胸当て、ひしゃげた大盾、散乱する革製の装備品の残骸。あの戦った道の其処此処そこここに、それらがあったことが思い出される。

 あれがノッゾさんのパーティーが使っていたものかどうかは分からない。どこにでもあり、誰でも使うようなものばかりで、印象に残るようなこともなかった。

 それでも、それはあの魔物が人間であったという話を裏づけるものではある。

 俺が、ノッゾさんたちと、戦ってたってこと、なのか?

 お互い頑張ろうや。

 後は自分たちでやんな。

 いいパーティーだな。

 そう声を掛けてくれたときの、三人の顔が思い浮かぶ。

 ふと、手を握られた。視線を移す。フィルが心配そうに俺を見ていた。ハッとして顔を上げると、サイガ組、ヒューガ組の面々も複雑な表情を俺に向けていた。

「ユーゴ、大丈夫かい?」

「あ、はい。ちょっと混乱しただけです」

「無理もねぇ。俺も信じられねぇからな」

「だが親父の言うことだ。信じざるを得ねぇ」

「そうね。信じたくはないけどね。この街の誇りを手に掛けたなんて」

 レインさんの言葉に、部屋の皆が首肯した。腑に落ちない、という表情で。

 俺は彼らがノッゾさんとどういった関係を築いていたのかは知らない。だが『この街の誇り』と言うくらいだ。少なからず、好意的に思っていたのが窺える。

 本来であれば、そんな人たちを自ら手に掛けたという事実は、激しく心を揺さぶるのだろうが、そういった思いを表現する者は誰一人いない。

 俺も遣り場のない怒りや悲しみ。罪悪感などといった類のものは何も感じない。戸惑いと驚きはあったが、それが消えてしまえば後には何も残っていなかった。

 決してサイガさんを信じていない訳ではないのだが……。

 フィルも同じなのか、納得いかないと言いたげな表情をしていた。
 
 
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