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宿場町~裏社会編
40.裏社会へようこそ(2)
しおりを挟む「叔父貴、こいつらはまだ登録から間もないんですよ。ブロンズの条件も満たしてるみたいなんですが、飛び級がねぇからアイアンで止まってるってだけです」
「ダンジョンも二日で四十階層まで到達してるらしいよ」
「それは面白いな。ユーゴさんと言ったかい? この組の若頭をやらないか?」
「お、叔父貴⁉」
目を剥いて声を裏返らせるナッシュを見て、ヒューガさんが軽く笑う。
「冗談だ。見れば分かる。彼らはこちら側に来る気がない人たちだ」
「人が悪いっすよ。マジでビビった」
空気が弛緩するのを感じた。肩から無駄な力が抜ける。ヒューガさんは刀の手入れを止めて鞘に収め、俺たちに向き直った。
「先に名乗らせて申し訳なかったね。俺はサイガの兄貴からこの組を任されているヒューガという者だ。ところで、サイガ組については知っているかい?」
俺は「いえ」と短く答えて僅かにかぶりを振る。
「そうか。うちはサイガ組の傘下だ。兄貴は五分だと言ってはくれるが、俺は幼い頃からおんぶに抱っこと随分と面倒を見てもらってね、兄貴には足を向けて寝られないほど感謝している。だから、言いたいことは分かるね」
再び張り詰める。サイガ組に不利益なことをするな、ということだろう。
「ヒューガさん、ユーゴとフィルはそんなことする奴らじゃないよ」
「そうだぜ叔父貴。ここに来るのも気持ちよく了承してくれたんだ」
クロエさんとナッシュが擁護してくれるが、ヒューガさんは睨みを解かない。
「ドグマ組と一悶着あったと聞いているが?」
「なっ――⁉」
ナッシュとクロエさんが驚愕の表情を浮かべた顔を俺に向ける。俺は心臓が縮んでいた。ヒューガさんは既に俺たちのことを知っていたようだ。まさか渡り人やハーフエルフということまで知られてはいないだろうが、それを確認する術はない。
くそっ。もどかしいな。
「どういうことだ、ユーゴ⁉」
「一悶着って、何したんだい⁉」
「ああ、いや、不可抗力というか」
「あ、あの、宿場町で絡まれちゃって、それをユーゴと、あとサクヤっていうパーティーのもう一人で、やっつけちゃった感じです。僕は衛兵を呼びに行ってたんで、何があったのかは分からないんですけど……」
フィルが尻すぼみに説明を終える。と、ヒューガさんがフッと軽く噴き出し哄笑する。その場にいる全員が呆気に取られたようにヒューガさんへ視線を集める。
「いや、申し訳ない。報告を受けたときには耳を疑ったが、まさか本当に二人で十五人も倒していたとはね。それも、ドグマ組が尻を持つシルバー階級とブロンズ階級からなるゴロツキ共を苦もなくだ。そんな痛快無比なことをやってのける傑物が街にいるのなら、是非とも会っておきたいと思っていたところだったんだよ」
「何だよ、人が悪いにも程があるぜ叔父貴。端っから知ってたんじゃねぇすか」
「ナッシュ、あんたねぇ、そっちじゃないでしょうよ。はぁ、ユーゴ、あんたドグマ組にちょっかい出してたんだね。まったく、連れてきて良かったよ」
「クロエの言うとおりだ。エディの旦那にも既に伝えてはあるが、気が気ではない様子だったと聞いている。ドグマ組はやり方が汚くてね。特に若頭のハンは何をしでかすか分からない。連中が先に動いていたら、ユーゴさんたちばかりか大勢の領民に被害が出ていたかもしれない」
「いえ、エドワードさんは多分――」
言い掛けて、飲み込む。エドワードさんが心配していたのはドグマ組の暴挙ではなく、アルネスの街の崩壊だと危うく口を滑らせそうになった自分に嫌気が差す。
どうして俺はこうヘマばかりするのか。
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