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宿場町~裏社会編

39.裏社会へようこそ(1)

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「腹減ったろ?」

 ナッシュから早めの昼飯を提案される。屋台で購入した、野菜と肉を生地で包んだ物を手渡される。名称はブリトーとそのまんまだった。

「美味いだろこれ、この街の名物料理なんだぜ」

 得意げにブリトーを頬張るナッシュの言葉にどう答えたものか思案してしまう。

 隣を見ると、元アメリカ出身のフィルは苦笑していた。ソースもチーズも使われておらず、味も微妙。食べ慣れている分、フィルは俺より複雑な気分だろう。

「ここだ」

 食べ歩きしながら連れて来られたのは、雑踏が煩わしい繁華街の一角にある事務所らしき場所だった。

 平素と変わらないといった様子で出入口を通るナッシュとクロエさんの後に続く。中には冒険者風の男たちが数人詰めていた。

「お疲れ様です」

「おう、ご苦労さん」

 片手を上げて挨拶するナッシュと、平然と歩くクロエさんに会釈する強面こわもての男たち。彼らに胡乱うろんげな目で見られつつ、俺とフィルは案内された奥の部屋に入る。

 高級感のある机の向こうで、椅子に座って刀を手入れしている男が一人。

 オールバックにした髪、鋭い目つき、黒いスーツ。部屋の調度品も、如何いかにも堅気かたぎではないことを示している。ただ、猫耳は合わないと思う。

「ナッシュか。何だ?」

「叔父貴、紹介したいのがいます。ユーゴ、フィル、来てくれ」

 手招きされて、俺とフィルはナッシュの隣に立つ。正直に言って、既に生きた心地はしていない。

 この事務所に入ったときはそうでもなかったが、目の前の男は明らかに格が上だと分からせられる圧があった。フィルばかりかナッシュもクロエさんも緊張しているのが分かる。

 だがそれ以上に猫耳が。俺は窮地きゅうちに立たされていることを自覚した。真面目に笑ってはいけない場面だ。誰か助けて欲しい。

 フィル、も駄目だ。肩を震わせて笑いを含み、完全にこらえている。お陰で可笑おかしさが倍増。やめろって。

「こちらは、ヒューガ組の組長のヒューガさんだ。挨拶してくれ」

「ア、アイアン階級冒険者のユーゴでぇす」

「プフォ、同じくフィルです」

 ナッシュの耳打ちの後で、直立不動で一礼する。

 プフォって何だ。やめろ。

 頭を下げていたので誤魔化すことができたが、上げるまでに必要以上に時間を要した。失礼極まりないが、頭にそんなミスマッチな物を生やしているヒューガさんも悪いと思う。

 訓練場で事前に聞かされた話によると、ナッシュはヒューガ組の若頭をやっているという。

 クロエさんは若頭補佐で、その生業は、街の治安維持の為に構成員を衛兵や護衛として派遣する、所謂いわゆる、警備派遣や民営軍事会社のようなものらしい。

 また、周辺の街と国境付近から得られる他国の情報収集も行っており、領主のエドワードさんや冒険者ギルドマスターのジオさんとも懇意こんいにしているという。

 顔を上げると、片眉を上げたヒューガさんの目が俺を射抜いた。

「アイアン階級を紹介?」

 猫耳がピクンと動く。俺は視線を落とす。見ちゃ駄目だ。
 
 
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