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宿場町~裏社会編
30.初絡まれテンプレ展開とダンジョン特急探検隊(8)
しおりを挟む俺としてはもう衛兵にお任せしたかったのだが、三人の劇団化が止められない。サクちゃんが怖い刑事役、ヤス君が優しい刑事役、フィルが情報を挟む書記役。
絶対楽しんでるだけだと思いつつ観劇していると、ヤス君が恩赦をちらつかせたところで若者二人が急にベラベラ喋り始めた。
その内容は、ドニーが俺たちを騙しているというものだった。ドニーは裏でドグマ組と繋がっていて、俺たちを消そうとしているらしい。
「な、何だって⁉」
思わず全員が身を乗り出す事態になった。皆、役に集中しすぎておかしくなってそうなので俺が謎の取調官として途中参加する。
「えー、あのね、君、そういうのいいから、本当のこと言いなさい」
「ほ、本当だ」
「嘘はよくないですねー。この場でクイッとやるよ? ん?」
一人の首に手をあてがうと、悲鳴を上げて嘘だと白状した。ドグマ組のハンとかいう若頭が雇い主だとか。訊くこと訊いたので、とっとと衛兵に突き出した。
恩赦がどうのこうの喚いていたが、ヤス君は知らん顔した。まぁ、ちらつかせただけで確約はしてなかったけども。
いやらしい手法だとは思う。でも考えてみれば、相手の方がもっといやらしい嘘を吐いた訳だから聞かなくていいのか。
「ドグマ組のハンね。誰か覚えておいてね」
「人任せは良くないっすよ。けど危なかったっす。疑心暗鬼になるとこっすよ」
「やり方が汚いんだよな。俺はしっかり覚えたぞ、ドグマ組と若頭のハン」
「僕もドキッとしちゃったよ。ユーゴがいなかったら完全に騙されてたね」
「君らは役に入り込み過ぎるからそうなっただけ。俺はずーっと蚊帳の外から観客として、文字通り客観的に見てたからね。嘘臭くてしょうがなかったよ」
それから俺たちはまたダンジョンに潜り、昼飯前には十階層、午後一時から午後六時まで数回の休憩を挟みつつ進行し、一日で三十五階層まで踏破した。
十層目でホブゴブリン、二十層目でラフトロル、三十層目でブラックオーガとボスらしき魔物が現れはしたが、ブラックオーガでようやくちょっと戦った感が出た感じだった。
ちなみに五階層の蜘蛛はパンチ一発で頭が潰れ、返り血ならぬ返り体液を被り酷い目にあった。
サクちゃんがそれを見て考えを変えたのは仕方がないことだと思う。捨て駒になった気分だが、俺でもそうする。誰だってそうする。
中層に入ってからは睡眠攻撃を行うメアシープや麻痺攻撃を行うパララウルフなどという状態異常を扱う魔物が出現しだしたのだが、これも敵ではなかった。
俺たち渡り人が持つ【無病息災】は、突発的な睡魔や麻痺などを病気と認定してもらえるらしい。
ヤス君によると、細菌などの生物が関わったものは病気と判定される可能性があるとのことだった。
つまりメアシープは眠りを誘発する細菌、パララウルフは麻痺を発生させる細菌を撒き散らしているということだ。
試しにイビルバイパーという蛇の魔物を倒し、牙で皮膚を刺してみたらしっかり毒を受けた感じがした。
ステボには状態異常表示がされない仕様な為、体感で判断する他ないが、患部が腫れて熱や痛みも伴ったので間違いないだろう。
ヨナさんの解毒薬で回復したが、毒は細菌性のものではなく、物質なので病気とは判断されなかったということのようだ。検証数は少ないが今のところそういう認識でいる。
「転移装置も見つかったし、そろそろ上がりにしませんか? 途中で何回か休憩してるとはいえ、流石に疲れましたわ」
「異議なし。ところで受けた依頼って何だったっけ?」
「イビルバイパーの……あれ? おいダンジョン初日で終わったぞ」
「わ、ホントだ! すっかり忘れてたけど、もう十匹は倒して収納したよ!」
「ならもう帰るか。明日、ビンゴさんが手紙持ってくって言ってたし、そのまま俺たちも乗せてってもらおう」
そう提案したが、四十層までは終わらせたいという意見がヤス君とフィルから上がったので、明日の早朝からそれをこなすことで話は決まった。
今晩、何事もなければいいが。
なんとなく嫌な予感がして、この日の晩は寝付きが悪かった。
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