上 下
112 / 409
宿場町~裏社会編

29.初絡まれテンプレ展開とダンジョン特急探検隊(7)

しおりを挟む
 
 
「一回出てトイレ休憩にします?」

 ヤス君の提案にフィルが賛成。俺とサクちゃんはフラストレーションを溜め込んでいたので反対したが、一度転移装置の感覚も味わっておきたいという言葉で「それもそうだ」と二人同時に納得。転移装置に階層登録がてら、一旦外へと出ることにした。

 転移装置は黒い小型の石柱で、各階層の数字が書かれたスイッチが付いている。何も書かれていない箇所が地上。それを押すと、スイッチが白く点灯し、ブゥン、という稼働音がする。音もスイッチの点灯も僅かの間。ほぼ一瞬。

 しばらく棒立ちになる。

 風景が変わらない。稼働は終了しているのだが、成功したのかどうなのか分からない。皆で顔を見合わせて首を傾げつつ扉を開ける。ちゃんと外だった。

 転移装置の小部屋は内装がほぼ同じな為、扉を開けるまで風景が大きく変わることはないようだと覚る。

「転移酔いみたいなのはなかったね」

「エレベーターの方が気持ち悪いかもっすね」

「いつ転移したのかまったく分からんかったんだが」

「俺も。はいはい、早くトイレ休憩済ませて戻ろう。今日中に十層は越えたいからねー。俺とサクちゃんは蜘蛛と戦いたいからねー」

 俺が手を叩いて呼び掛けるとフィルとヤス君が「はーい」と手を上げて返事をし、トイレの方へと向かった。が、その後を追う者の姿がある。

 男女合わせて四人。俺が気づいたってことは、ヤス君は確実に気づいている。サクちゃんへ目を向けると頷いた。

「四人だったな。どうする?」

「多分、放っておいても大丈夫な気がするけど、念の為追いかけようか」

 慌てず急がずゆっくりと進んだ後に見たのは、取り押さえられた若い男二人と、取り押さえている冒険者らしき中年の男女。側にはフィルとヤス君。

「何これ? どういう状況?」

「あ、ユーゴ。えーっと、僕らが変なのに追われてることに気づいて、彼らが捕まえてくれたんだよ」

 フィルが二人を紹介してくれた。ノッゾさんのパーティーメンバーのイゴールさんとミルリナさん。

 イゴールさんは大柄な男性で、ミルリナさんは細身で背の高い女性。多分、二人とも人族。礼を言うと、苦笑された。

「俺たちが手を貸す必要もなかったみたいだな」

「本当に。余計なお世話だったね」

 二人は躊躇ちゅうちょなく若い男二人の腕を捻り上げて折り、手を払って立ち上がる。

「後は自分たちでやんな」

 ミルリナさんが手をひらひらしながら歩き去る。イゴールさんは俺たちをぐるっと見てから満足げに頷いて「いいパーティーだな。頑張れよ」と笑ってミルリナさんの後をのしのし追った。背中に背負った大盾がまたでかい。

「なるほど確かに、ノッゾさんのパーティーメンバーらしい雰囲気だな」

「いやー、強かったっすよ。取り押さえるまで一瞬でした」

「へー、それは見たかったな。それで、こいつらどうしよっか?」

「衛兵に突き出す前に、雇い主とかいるなら知っておきたいね」

 フィルがそう言うものだから仕方なく腕を折られた若者二人に動機や目的を訊くが、予想通り何一つ答えない。
 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界で買った奴隷が強すぎるので説明求む!

夜間救急事務受付
ファンタジー
仕事中、気がつくと知らない世界にいた 佐藤 惣一郎(サトウ ソウイチロウ) 安く買った、視力の悪い奴隷の少女に、瓶の底の様な分厚いメガネを与えると めちゃめちゃ強かった! 気軽に読めるので、暇つぶしに是非! 涙あり、笑いあり シリアスなおとぼけ冒険譚! 異世界ラブ冒険ファンタジー!

空間魔法って実は凄いんです

真理亜
ファンタジー
伯爵令嬢のカリナは10歳の誕生日に実の父親から勘当される。後継者には浮気相手の継母の娘ダリヤが指名された。そして家に置いて欲しければ使用人として働けと言われ、屋根裏部屋に押し込まれた。普通のご令嬢ならここで絶望に打ちひしがれるところだが、カリナは違った。「その言葉を待ってました!」実の母マリナから託された伯爵家の財産。その金庫の鍵はカリナの身に不幸が訪れた時。まさに今がその瞬間。虐待される前にスタコラサッサと逃げ出します。あとは野となれ山となれ。空間魔法を駆使して冒険者として生きていくので何も問題ありません。婚約者のイアンのことだけが気掛かりだけど、私の事は死んだ者と思って忘れて下さい。しばらくは恋愛してる暇なんかないと思ってたら、成り行きで隣国の王子様を助けちゃったら、なぜか懐かれました。しかも元婚約者のイアンがまだ私の事を探してるって? いやこれどーなっちゃうの!?

転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す

エルリア
ファンタジー
【祝!第17回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞!】 転売屋(テンバイヤー)が異世界に飛ばされたらチートスキルを手にしていた! 元の世界では疎まれていても、こっちの世界なら問題なし。 相場スキルを駆使して目指せ夢のマイショップ! ふとしたことで異世界に飛ばされた中年が、青年となってお金儲けに走ります。 お金は全てを解決する、それはどの世界においても同じ事。 金金金の主人公が、授かった相場スキルで私利私欲の為に稼ぎまくります。

興味はないので、さっさと離婚してくださいね?

hana
恋愛
伯爵令嬢のエレノアは、第二王子オーフェンと結婚を果たした。 しかしオーフェンが男爵令嬢のリリアと関係を持ったことで、事態は急変する。 魔法が使えるリリアの方が正妃に相応しいと判断したオーフェンは、エレノアに冷たい言葉を放ったのだ。 「君はもういらない、リリアに正妃の座を譲ってくれ」

今世では溺れるほど愛されたい

キぼうのキ
ファンタジー
幼い頃両親を亡くし、親戚の家を転々としてきた青木ヨイは居場所がなかった。 親戚の家では煙たがられ、学校では親がいないという理由でいじめに合っていた。 何とか高校を卒業して、親戚の家を出て新しい生活を始められる。そう思っていたのに、人違いで殺されるなんて。 だが神様はヨイを見捨てていなかった。 もう一度、別の世界でチャンスを与えられた。 そこでのヨイは、大国のお姫様。 愛想、愛嬌、媚び。暗かった前世の自分に反省して、好かれるために頑張る。 そして、デロデロに愛されて甘やかされて、幸せになる!

退屈な人生を歩んでいたおっさんが異世界に飛ばされるも無自覚チートで無双しながらネットショッピングしたり奴隷を買ったりする話

菊池 快晴
ファンタジー
無難に生きて、真面目に勉強して、最悪なブラック企業に就職した男、君内志賀(45歳)。 そんな人生を歩んできたおっさんだったが、異世界に転生してチートを授かる。 超成熟、四大魔法、召喚術、剣術、魔力、どれをとっても異世界最高峰。 極めつけは異世界にいながら元の世界の『ネットショッピング』まで。 生真面目で不器用、そんなおっさんが、奴隷幼女を即購入!? これは、無自覚チートで無双する真面目なおっさんが、元の世界のネットショッピングを楽しみつつ、奴隷少女と異世界をマイペースに旅するほんわか物語です。

異世界転移は草原スタート?!~転移先が勇者はお城で。俺は草原~

ノエ丸
ファンタジー
「ステータスオープン!」シーン「——出ねぇ!」地面に両手を叩きつけ、四つん這いの体制で叫ぶ。「クソゲーやんけ!?」 ――イキナリ異世界へと飛ばされた一般的な高校ソラ。 眩い光の中で、彼が最初に目にしたモノ。それは異世界を作り出した創造神――。 ではなくただの広い草原だった――。 生活魔法と云うチートスキル(異世界人は全員持っている)すら持っていない地球人の彼はクソゲーと嘆きながらも、現地人より即座に魔法を授かる事となった。そして始まる冒険者としての日々。 怖いもの知らずのタンクガールに、最高ランクの女冒険者。果てはバーサーカー聖職者と癖のある仲間達と共に異世界を駆け抜け、時にはヒーラーに群がられながらも日々を生きていく。

スキル【自動回収】で人助け〜素直な少年は無自覚に人をたらし込む〜

ree
ファンタジー
主人公ー陽野 朝日は(ようの あさひ)は  かなり変わった境遇の持ち主だ。  自身の家族も故郷も何もかもを知らずに育ち、本だけが友達だった。  成人を目前にして初めて外に出た彼は今まで未知だった本の中の世界を夢見て冒険に出る。  沢山の人に頼り、頼られ、懐き、懐かれ…至る所で人をタラシ込み、自身の夢の為、人の為ひた走る。    【自動回収】という唯一無二のスキルで気づかず無双!?小さな世界から飛び出した無垢な少年は自分の為に我儘に異世界で人をタラシ込む?お話…  冒険?スローライフ?恋愛?  何が何だか分からないが取り敢えず懸命に生きてみます! *ゲームで偶に目にする機能。  某有名ゲームタイトル(ゼ○ダの伝説、テイ○ズなどなど)をプレイ中、敵を倒したらそのドロップアイテムに近づくと勝手に回収されることがありませんか?  その機能を此処では【自動回収】と呼び、更に機能的になって主人公が扱います。 *設定上【自動回収】の出来る事の枠ゲームよりもとても広いですが、そこはご理解頂ければ幸いです。 ※誤字脱字、設定ゆるめですが温かい目で見守って頂ければ幸いです。 ※プロット完成済み。 ※R15設定は念の為です。 ゆっくり目の更新だと思いますが、最後まで頑張ります!  

処理中です...