110 / 409
宿場町~裏社会編
27.初絡まれテンプレ展開とダンジョン特急探検隊(5)
しおりを挟む協力感謝の言葉をドニーが代表で掛けてくれたが、そのときにこっそり耳打ちしてくれた。衛兵の中にも、既に何人か密告者が出たらしい。
「隊長と副長が『家族だけは』と頭を下げましたからね。弱ったことに、貴族の血筋ってだけで、僕が隊長になる可能性が出てきました」
「おー、おめでとう。良かったじゃない。俺たちもドニーの方が良いと思うよ」
「どうしてです?」
「イノリノミヤ神教絡みのよしみっすかねー」
「それに、お前は見ていて気持ちがいいからだよ」
サクちゃんがにっと笑ってドニーの肩を軽く叩く。ドニーは「皆さんも信徒でしたか!」と嬉しそうに笑った。
いや違う。だが、存在を信じている上、元神職見習い。否定し辛い位置にいると自覚。嘘は吐いてないが、皆変な汗が出た。
どうなるかは分からないが、エドワードさん宛の手紙に、ドニーを衛兵隊長に推すとも書いておくことにした。
まだ若いのでそう上手くはいかないだろうが、あの性格なら大丈夫だろう。
ということで、めでたしめでたし。
ではあるのだが、この事件の所為で時間を取られてしまい、昼食をまともにとれなかった上にダンジョンに入ることもできなかった。残りの半日は、宿と解体屋で潰れて終わり。それがなんだか時間を無駄にしたように思えて、俺は宿の食堂で皆と夕食をとっているときに愚痴を溢さずにはいられなかった。
「無駄ってことはないだろ? 解体屋も行けたし、良さそうな宿も取れたし。ビンゴさんに手紙を届けてもらえることになったし、俺は何の不満もないけどな」
「ビンゴさんが解体屋の店主なのは驚きましたけどね。まぁ、冒険者ギルドに持ち込んでるんだから、考えてみれば当然っすけど。それより何よりデビディアっすよ。一頭金貨十枚って。あの二頭狩るだけで一人金貨五枚っすよ」
「あんまりいないんだよ。それに素材と魔石が丸々だからね。ビンゴさんも言ってたけど、普通はこんなに高く買い取ってもらえないよ。ポイズナプリーなんて金貨五枚だったし」
「図体の割に安かったよね。繁殖して数がとれるからだろうけど。あれ? 本当だ。何だよー、愚痴るほど酷い感じじゃなかったわー。いい一日じゃん」
翌日早朝、ドニーが宿まで報告に来た。俺がぶん殴った奴の荷物から、遺失物の届け出が出されていた物がいくつも見つかったとのこと。その中には、宿場町に来る途中に見た馬車のものもあったそうだ。
それを聞いて、気持ちが沈んだのは俺だけではなかったようだ。事情を知らないフィルは欠伸をかみ殺していたが、残る二人の表情がそれを物語っていた。
報告のお陰で色々と想像してしまった。少なくとも、朝食前に聞く話ではないことは確か。ドニーも嫌がらせのようなことをする。一刻も早く伝えたいという気持ちは分かるが、少しは配慮してもらいたいものだ。と、思う。
持ち主や遺族からの報奨金が出るとのことだったが、判断が俺に委ねられたので受け取るのを断った。素直に喜べる気分にはなれない。遺族の心に救いがあることを願うばかりだ。
それから俺たちはダンジョンに向かった。三十分程で到着したが、側には衛兵詰所があり、ダンジョン出入口は鉄製の柵で囲われ門兵に管理されていた。
思っていたよりしっかりと環境整備されていることに驚き、それをそのまま感想として述べたところ「ダンジョンからも魔物が出てくることがあるからね」とフィルが言った。設備云々よりも、フィルの知識量に感心して話は終わった。
0
お気に入りに追加
432
あなたにおすすめの小説
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
異世界で買った奴隷が強すぎるので説明求む!
夜間救急事務受付
ファンタジー
仕事中、気がつくと知らない世界にいた 佐藤 惣一郎(サトウ ソウイチロウ)
安く買った、視力の悪い奴隷の少女に、瓶の底の様な分厚いメガネを与えると
めちゃめちゃ強かった!
気軽に読めるので、暇つぶしに是非!
涙あり、笑いあり
シリアスなおとぼけ冒険譚!
異世界ラブ冒険ファンタジー!
冷遇ですか?違います、厚遇すぎる程に義妹と婚約者に溺愛されてます!
ユウ
ファンタジー
トリアノン公爵令嬢のエリーゼは秀でた才能もなく凡庸な令嬢だった。
反対に次女のマリアンヌは社交界の華で、弟のハイネは公爵家の跡継ぎとして期待されていた。
嫁ぎ先も決まらず公爵家のお荷物と言われていた最中ようやく第一王子との婚約がまとまり、その後に妹のマリアンヌの婚約が決まるも、相手はスチュアート伯爵家からだった。
華麗なる一族とまで呼ばれる一族であるが相手は伯爵家。
マリアンヌは格下に嫁ぐなんて論外だと我儘を言い、エリーゼが身代わりに嫁ぐことになった。
しかしその数か月後、妹から婚約者を寝取り略奪した最低な姉という噂が流れだしてしまい、社交界では爪はじきに合うも。
伯爵家はエリーゼを溺愛していた。
その一方でこれまで姉を踏み台にしていたマリアンヌは何をしても上手く行かず義妹とも折り合いが悪く苛立ちを抱えていた。
なのに、伯爵家で大事にされている姉を見て激怒する。
「お姉様は不幸がお似合いよ…何で幸せそうにしているのよ!」
本性を露わにして姉の幸福を妬むのだが――。
スキル【自動回収】で人助け〜素直な少年は無自覚に人をたらし込む〜
ree
ファンタジー
主人公ー陽野 朝日は(ようの あさひ)は
かなり変わった境遇の持ち主だ。
自身の家族も故郷も何もかもを知らずに育ち、本だけが友達だった。
成人を目前にして初めて外に出た彼は今まで未知だった本の中の世界を夢見て冒険に出る。
沢山の人に頼り、頼られ、懐き、懐かれ…至る所で人をタラシ込み、自身の夢の為、人の為ひた走る。
【自動回収】という唯一無二のスキルで気づかず無双!?小さな世界から飛び出した無垢な少年は自分の為に我儘に異世界で人をタラシ込む?お話…
冒険?スローライフ?恋愛?
何が何だか分からないが取り敢えず懸命に生きてみます!
*ゲームで偶に目にする機能。
某有名ゲームタイトル(ゼ○ダの伝説、テイ○ズなどなど)をプレイ中、敵を倒したらそのドロップアイテムに近づくと勝手に回収されることがありませんか?
その機能を此処では【自動回収】と呼び、更に機能的になって主人公が扱います。
*設定上【自動回収】の出来る事の枠ゲームよりもとても広いですが、そこはご理解頂ければ幸いです。
※誤字脱字、設定ゆるめですが温かい目で見守って頂ければ幸いです。
※プロット完成済み。
※R15設定は念の為です。
ゆっくり目の更新だと思いますが、最後まで頑張ります!
来訪神に転生させてもらえました。石長姫には不老長寿、宇迦之御魂神には豊穣を授かりました。
克全
ファンタジー
ほのぼのスローライフを目指します。賽銭泥棒を取り押さえようとした氏子の田中一郎は、事もあろうに神域である境内の、それも神殿前で殺されてしまった。情けなく申し訳なく思った氏神様は、田中一郎を異世界に転生させて第二の人生を生きられるようにした。
冷酷な少年に成り代わってしまった俺の話
岩永みやび
BL
気が付いたら異世界にいた主人公。それもユリスという大公家の三男に成り代わっていた。しかもユリスは「ヴィアンの氷の花」と呼ばれるほど冷酷な美少年らしい。本来のユリスがあれこれやらかしていたせいで周囲とはなんだかギクシャク。なんで俺が尻拭いをしないといけないんだ!
知識・記憶一切なしの成り代わり主人公が手探り異世界生活を送ることに。
突然性格が豹変したユリスに戸惑う周囲を翻弄しつつ異世界ライフを楽しむお話です。
※基本ほのぼの路線です。不定期更新。冒頭から少しですが流血表現あります。苦手な方はご注意下さい。
私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください。
アーエル
ファンタジー
旧題:私は『聖女ではない』ですか。そうですか。帰ることも出来ませんか。じゃあ『勝手にする』ので放っといて下さい。
【 聖女?そんなもん知るか。報復?復讐?しますよ。当たり前でしょう?当然の権利です! 】
地震を知らせるアラームがなると同時に知らない世界の床に座り込んでいた。
同じ状況の少女と共に。
そして現れた『オレ様』な青年が、この国の第二王子!?
怯える少女と睨みつける私。
オレ様王子は少女を『聖女』として選び、私の存在を拒否して城から追い出した。
だったら『勝手にする』から放っておいて!
同時公開
☆カクヨム さん
✻アルファポリスさんにて書籍化されました🎉
タイトルは【 私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください 】です。
そして番外編もはじめました。
相変わらず不定期です。
皆さんのおかげです。
本当にありがとうございます🙇💕
これからもよろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる