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宿場町~裏社会編
24.初絡まれテンプレ展開とダンジョン特急探検隊(2)
しおりを挟む「あー、疲れた。ああいうの断るのって難しいもんだな」
「【魅惑無効】ついてるんじゃないの?」
「フィル君、それ一切関係ないっすよ。無視するのが申し訳ないとか思った自分が馬鹿でした。あんなにグイグイくると思ってなかったっす」
「フィル、食事処が見つかるまで手を繋いでような」
「お昼ご飯奢ってね」
その後、無事に食事処を見つけたが、中に入った時点で柄が悪い感じがした。
薄暗い店内にいる客たちから一斉に視線を向けられる。アルネスの街では感じたことのない雰囲気で、フィルが少し怯えているのが分かった。
フィル、大丈夫だぞ。と心で呟いて笑顔を向けたら軽く噴き出された。何でだよ。
「別の場所にする?」
「そうした方が良さそうだな。大したことはなさそうだが」
サクちゃんと小声で遣り取りしていると、カウンター席にいた冒険者風の若い男が立ち上がり、人を小馬鹿にしたような嫌らしい笑みを浮かべて近づいてきた。
「飯食いに来たんだろ? 座れよ」
「いえ、別の店に――」
「おいおいおいおい、駄目駄目、何言ってんだよ。入ったなりに出て行くってのはおかしいだろ? そんなに不味そうに見えるのか、この店が?」
店内の客が笑いだす。明らかな嘲笑。テーブル席にいた男たちのうち三人が立ち上がり近づいてくる。全員、絡んできた男と同じく冒険者風でおそらく人族。
「初絡まれっすね」
「そうだね。これがヤス君が言ってたテンプレ展開ってやつか」
「まだそうと決まった訳じゃないだろう。いい奴かもしれんぞ」
「何をヒソヒソやってんだコラ! 出てくってんなら、止めやしねぇよ。その代わりに退場料置いてきな。その前に入場料もだ。それとおい、お前はその上に羽織ってる服も寄越せ。痛い目みたくなかったらな」
「断る」
サクちゃんが言い切ったことが意外だったのか、男は一瞬ぽかんとした。が、すぐにゲラゲラと腹を抱えて笑いだした。
「面白ぇこと言ってんじゃねぇよ。ここが何処かも分からねぇ新米がよぉ。俺ぁシルバー階級だぜ? そんで、この店にいるのは全員ブロンズ階級だ。その軽そうな頭じゃそれがどういう意味かも分からねぇか?」
「階級と能力は関係ないんすけどね。そんな基本的なことも分かってねーのが、またテンプレ展開っすね」
「あぁ? 訳分かんねぇこと言ってんじゃねぇぞ。ああ、そうかそうか、分かった。田舎者だな。なら仕方ねぇな。教えてやるよ。俺たちゃドグマ組傘下の者だ」
えぇ……? 誰ぇ……?。
男が自信満々に言ってのけたが、困ったことに俺たち渡り人組はそのドグマ組とやらが何なのか分からない。唯一知っていそうなフィルに視線を向けるが、不安そうな顔でかぶりを振られる。
「フィル、知らないのか? それとも知ってて手を出すなってことか?」
「し、知らないってこと。ぷっ、それよりさ、鼻毛出てるよ」
「それ今言う⁉ ローアングルから見てるからじゃないの⁉」
「ううん、完全にオフサイドしてるよ。僕はいつもこの位置から審判やってるからこの判定に誤りはないよ」
マジかよ……。ずっとそんなことしてたのかこいつ……。
驚くべきは、サッカー用語を使ってしっかりとネタとして完成させようとしているところ。この状況下でそれをやってのけるとは。フィルよ、お前がナンバーワンだ。
「ん、おい、そこのガキはエルフだな。そいつは置いていけ」
「何で?」
「慰み者にどぅぶふっ!」
馬鹿の頭が床にめり込み、床板が割れて辺りに埃が舞う。
誤解があると良くないと思って一応目的を訊いたが、思った通りの返答だったので顔面をぶん殴ってやった。決して鼻毛についてどうこう指摘されて恥ずかしかった腹いせではない。
店内から笑い声が消え、静寂が訪れる。
軽く視線を移すと、近寄ってきていた三人が目を見開き、息を飲んでいた。虎の威を借る狐、の威を借る鼠らしい反応。
そして俺の心の中では、こんな思いが迸っていた。
こういうの漫画で見たことある!
何歳になっても男の子な自分を隠しつつフィルに視線を向ける。
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