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宿場町~裏社会編

8.怒る坊やと気を損ねそうな女と憤る男(2)

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「あら、なんだいあんたたち、パーティー組んだのかい?」

 開口一番、エノーラさんが驚いた様子でそんなことを言った。

 そういえば四人で来るのは初めてだったと気づく。ざっと店内を見たが、他にお客さんはいないようだったので、遠慮なく会話させてもらうことにした。

「いえ、そうじゃないんですよ。俺がフィルに連れられてここに来たときには、もうパーティーを組んでたんです。フィル以外は」

「確かにそうだったけど、最後に『フィル以外は』って言う必要ある?」

「まぁまぁ、今はこの四人でパーティー組んでるんだっていうのを強調したかったんじゃないっすか? あ、どうも、ヤスヒトって言います」

「エノーラさんお久しぶりです。仕事をくださってありがとうございました」

 ヤス君とサクちゃんが軽く頭を下げて挨拶すると、エノーラさんは笑った。

「ヤダねぇ、そんなに畏まらなくったっていいよ。だけどいやー、そうかいそうかい。アタシが橋渡ししてやろうかって考えてたんだけどね、最初から組んでたってんだからね。驚くより、なんだか嬉しくなっちまったよ」

 橋渡し? とフィルが訊き返す。

「なぁに、サクヤがうちに手伝いに来てたからね。真面目だし、歳も近そうだったからフィルとユーゴを紹介してやろうと思って声を掛けたんだよ。パーティーメンバーに良さそうなのがいるけど会ってみるかいってね。そしたら『間に合ってます』って言うもんだからさ、勿体ないと思ってたんだよ」

「すいません。ユーゴとフィルが知り合いだって言いそびれてました」

かまやしないよ。こっちも訊かなかったんだから。それにあんたぐらい寡黙に仕事してる奴には、放っておいてもいい仲間ができるって思ってたからね。そんなことより今日は何の用だい?」

 取り敢えず、ダンジョンに挑むことと、それぞれの要望を簡単に伝える。

 置いてある武具を素人目で適当に選ぶよりは、エノーラさんに頼った方が間違いがないからだ。

 エノーラさんは、顎に手を遣って頷きながら、黙って俺たちの話を聞いていたが、途中で苦笑した。

「長く使えて安くて良い物ってのは結構な難題だね。そんなもんはうちにはないよ。値段に見合った性能の物しか置かないからね」

 若干、不機嫌そうな声だった。ちらりと仲間たちの様子を見る。全員、表情に焦りが感じられた。ということは、心は一つ。うちのパーティーには、誰一人として空気が読めない者はいない。俺が先陣を切る。

「ああ、すいませんそれは飽くまで理想の話です。決して職人さんの仕事を馬鹿にしている訳ではないですよ」

「そ、そうっす。言い換えると、上層どころか中層越えるまで買い替える必要がないくらい安心して命を任せられる防具が欲しいって感じっすね!」

「どうせ買うなら、この店と契約してる工房の職人さんたちに丹精込めて作ってもらった物がいいですし、使えば愛着も湧きますから手放すのが惜しいというか」

「ええっと、安くっていうのは、値切りはしないし、いっぱい買うからおまけしてくださいねって、お願いみたいなものですよー。えへへ」

 お引き取り願おうかの流れになりそうだったのを全員で必死にフォローして回避を願う。言いたいことを言い過ぎた結果、冷や汗を掻く羽目になった。

 エノーラさんは片眉を上げて俺たちを見た後で、肩の力を抜くように溜め息をいた。

「なんだい、そういうことかい。あんたたちも物の価値を知らない馬鹿なのかって寂しくなるとこだったよ」

「いやいや、そんな訳ないじゃないですかー。ねぇ?」

 全員で笑って誤魔化す。危うくその馬鹿の仲間入りをするところだった。
 
 
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