上 下
89 / 409
宿場町~裏社会編

6.逆転の発想と熟練冒険者との出会い(6)

しおりを挟む
 
 
「いやー、お兄さんたち面白い試合するねー」

 拍手をしながら近づいてくる冒険者風の男が一人。どことなくやさぐれた印象だったので、絡まれるのかと思って身構えると、両手を上げて苦笑された。

「いやいや、絡もうなんて思っちゃいねぇよ。俺はノッゾってんだ。階級はブロンズ。長いこと冒険者パーティのリーダーやってる」

 名乗られたので、俺たちもそれぞれ軽い会釈をしつつ階級と名乗りを返す。

「は? アイアンとノービス?」

 ノッゾさんが目を丸くした。が、俺たちが三人で顔を見合わせていると「ゴホン」と大袈裟に咳払いして誤魔化し、頭を掻きながら言った。

「すまん。ブロンズはあると思ってたんでな」

 おかしいな、目が曇っちまったのかな。と、首を捻ってぶつぶつと呟く。

「あのー、それで用件は?」

「ああ、すまねぇ! 結論から言うと、勧誘だ」

 深く訊こうとした訳でもないのに、ノッゾさんが理由を話し始めた。

 ノッゾさんのパーティーは、ここ数年の間ずっとダンジョン中層で足踏み状態だったそうだ。それが最近ようやくダンジョン下層に進めるようになったらしい。

「で、あとちょっとでシルバーに上がれるってとこまできてるし、実際、上がれるんだが、もう歳だし流石に三人だとキツいって話になってな」

 ノッゾさんは幼馴染みで村を出て、そのまま現在に至るまで一度もパーティの拡充かくじゅうを行わなかったのだという。

「どうしてです?」

「いやそれがな、新米の頃に騙されちまってな。一緒にダンジョンに入った奴らに後ろからぶん殴られて、気づいたら身ぐるみ剥がされて置き去りにされてたんだよ。それも中層だぜ? あんときゃ本気で死ぬかと思ったぜ」

 苦々しい思い出を口の中で噛み砕いたような渋面で、ノッゾさんは語った。

 命からがら上層に帰還し、善意ある他の冒険者に助けられたはいいが、金も装備も失ってしまった。

 どうにか裁きを受けさせたいと、自分たちを騙した冒険者を探してみたところ、同様の行為で既に登録を取り消された元冒険者だという情報を得た。

 だがその詐欺師たちは既に街から姿を消していたという。

「恥ずかしい話だが、三人が三人とも、しばらく人間不信みたいになっちまってな。まぁ、意固地になったところもあるんだが、若かったし、実際なんとかなっちまってたのもある。それで、メンバーを補充するって言い出せなくなってな」

「いつの間にか、禁句みたいになっちゃってたんすね」

「ああ、弱ったもんだよ。俺が腹を決めて言ったら、あいつら『やっと言ったか』なんて言いやがってよ。思ってたんなら言ってくれれば良いじゃねぇかよなぁ」

「仲が良いんですね」

 思わず微笑んでしまう。するとノッゾさんが照れ笑いして片手を振る。

「よせよぉ。腐れ縁だ、腐れ縁。ただまぁ、苦楽は共にした奴らではあるな。うん。おう、そんで、ユーゴとサクヤはどうだ? 入ってくれるか?」

「すいませんが、こっちは既に四人パーティの目処めどが立っているので」

 ノッゾさんは「あちゃー」と額を叩いて苦笑した。

「そうか。なら仕方ねぇ。すまねぇな、時間取らせた」

「いえ、また機会があれば」

「おう、そんときゃ頼むぜ。あ、それとな、ヤスヒトだったか?」

「え、あ、はい」

「あのな、ヤスヒトを誘わなかったのは、こっちにゃもう弓使いがいるからってだけだぜ。別にこの二人がヤスヒトより使えそうだとか思った訳じゃねぇからな。三人とも、仲良くしろよ。じゃあな」

 ノッゾさんは無理強いせず、笑顔で「お互い頑張ろうや」と言って、訓練場の出入口の方へと歩いていった。

「ノッゾさん、最初の模擬戦から見てたんだね。気を遣って、声を掛けるタイミングを計ってたのかな?」

「有り得ますね。見た目が薄汚れたちょい悪オヤジでしたけど、めちゃくちゃ良い人でしたからね。苦労人感がにじみ出てましたし」

「最後のフォローは、俺たちに昔の自分たちの姿を重ねたからだろうな。なんか良いよな、ああいう感じ」

 ヤス君の言っていた異世界テンプレという初めての物騒な騒動に発展するかと思いきや、良い先輩冒険者からのこざっぱりとしたパーティー勧誘を受けただけだった。
  
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

俺が異世界帰りだと会社の後輩にバレた後の話

猫野 ジム
ファンタジー
会社員(25歳・男)は異世界帰り。現代に帰って来ても魔法が使えるままだった。 バレないようにこっそり使っていたけど、後輩の女性社員にバレてしまった。なぜなら彼女も異世界から帰って来ていて、魔法が使われたことを察知できるから。 『異世界帰り』という共通点があることが分かった二人は後輩からの誘いで仕事終わりに食事をすることに。職場以外で会うのは初めてだった。果たしてどうなるのか? ※ダンジョンやバトルは無く、現代ラブコメに少しだけファンタジー要素が入った作品です ※カクヨム・小説家になろうでも公開しています

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

異世界で買った奴隷が強すぎるので説明求む!

夜間救急事務受付
ファンタジー
仕事中、気がつくと知らない世界にいた 佐藤 惣一郎(サトウ ソウイチロウ) 安く買った、視力の悪い奴隷の少女に、瓶の底の様な分厚いメガネを与えると めちゃめちゃ強かった! 気軽に読めるので、暇つぶしに是非! 涙あり、笑いあり シリアスなおとぼけ冒険譚! 異世界ラブ冒険ファンタジー!

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる

名無し
ファンタジー
突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。

処理中です...