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宿場町~裏社会編
6.逆転の発想と熟練冒険者との出会い(6)
しおりを挟む「いやー、お兄さんたち面白い試合するねー」
拍手をしながら近づいてくる冒険者風の男が一人。どことなくやさぐれた印象だったので、絡まれるのかと思って身構えると、両手を上げて苦笑された。
「いやいや、絡もうなんて思っちゃいねぇよ。俺はノッゾってんだ。階級はブロンズ。長いこと冒険者パーティのリーダーやってる」
名乗られたので、俺たちもそれぞれ軽い会釈をしつつ階級と名乗りを返す。
「は? アイアンとノービス?」
ノッゾさんが目を丸くした。が、俺たちが三人で顔を見合わせていると「ゴホン」と大袈裟に咳払いして誤魔化し、頭を掻きながら言った。
「すまん。ブロンズはあると思ってたんでな」
おかしいな、目が曇っちまったのかな。と、首を捻ってぶつぶつと呟く。
「あのー、それで用件は?」
「ああ、すまねぇ! 結論から言うと、勧誘だ」
深く訊こうとした訳でもないのに、ノッゾさんが理由を話し始めた。
ノッゾさんのパーティーは、ここ数年の間ずっとダンジョン中層で足踏み状態だったそうだ。それが最近ようやくダンジョン下層に進めるようになったらしい。
「で、あとちょっとでシルバーに上がれるってとこまできてるし、実際、上がれるんだが、もう歳だし流石に三人だとキツいって話になってな」
ノッゾさんは幼馴染みで村を出て、そのまま現在に至るまで一度もパーティの拡充を行わなかったのだという。
「どうしてです?」
「いやそれがな、新米の頃に騙されちまってな。一緒にダンジョンに入った奴らに後ろからぶん殴られて、気づいたら身ぐるみ剥がされて置き去りにされてたんだよ。それも中層だぜ? あんときゃ本気で死ぬかと思ったぜ」
苦々しい思い出を口の中で噛み砕いたような渋面で、ノッゾさんは語った。
命からがら上層に帰還し、善意ある他の冒険者に助けられたはいいが、金も装備も失ってしまった。
どうにか裁きを受けさせたいと、自分たちを騙した冒険者を探してみたところ、同様の行為で既に登録を取り消された元冒険者だという情報を得た。
だがその詐欺師たちは既に街から姿を消していたという。
「恥ずかしい話だが、三人が三人とも、しばらく人間不信みたいになっちまってな。まぁ、意固地になったところもあるんだが、若かったし、実際なんとかなっちまってたのもある。それで、メンバーを補充するって言い出せなくなってな」
「いつの間にか、禁句みたいになっちゃってたんすね」
「ああ、弱ったもんだよ。俺が腹を決めて言ったら、あいつら『やっと言ったか』なんて言いやがってよ。思ってたんなら言ってくれれば良いじゃねぇかよなぁ」
「仲が良いんですね」
思わず微笑んでしまう。するとノッゾさんが照れ笑いして片手を振る。
「よせよぉ。腐れ縁だ、腐れ縁。ただまぁ、苦楽は共にした奴らではあるな。うん。おう、そんで、ユーゴとサクヤはどうだ? 入ってくれるか?」
「すいませんが、こっちは既に四人パーティの目処が立っているので」
ノッゾさんは「あちゃー」と額を叩いて苦笑した。
「そうか。なら仕方ねぇ。すまねぇな、時間取らせた」
「いえ、また機会があれば」
「おう、そんときゃ頼むぜ。あ、それとな、ヤスヒトだったか?」
「え、あ、はい」
「あのな、ヤスヒトを誘わなかったのは、こっちにゃもう弓使いがいるからってだけだぜ。別にこの二人がヤスヒトより使えそうだとか思った訳じゃねぇからな。三人とも、仲良くしろよ。じゃあな」
ノッゾさんは無理強いせず、笑顔で「お互い頑張ろうや」と言って、訓練場の出入口の方へと歩いていった。
「ノッゾさん、最初の模擬戦から見てたんだね。気を遣って、声を掛けるタイミングを計ってたのかな?」
「有り得ますね。見た目が薄汚れたちょい悪オヤジでしたけど、めちゃくちゃ良い人でしたからね。苦労人感が滲み出てましたし」
「最後のフォローは、俺たちに昔の自分たちの姿を重ねたからだろうな。なんか良いよな、ああいう感じ」
ヤス君の言っていた異世界テンプレという初めての物騒な騒動に発展するかと思いきや、良い先輩冒険者からのこざっぱりとしたパーティー勧誘を受けただけだった。
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