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アルネスの街編
44.神樹も花咲く絶世の笑顔(4)
しおりを挟むそれから半月――。
カキ氷屋は連日大盛況。
思いの外、皆の魔力の伸びが大きかった。
二日後には俺とフィル、一週間後にはヤス君が魔力枯渇に陥ることもなくなり、一日二百食完売が当たり前で、五十食の追加販売も決行した。
「んー、美味しい」
そう言って満足気に体を震わすのは冒険者ギルド職員のミチルさん。リピーターになってくれた一人だ。そんな彼女が、面白い情報をくれた。
「そういえば、類似品を販売する人たちも出てるみたいですよ。けど、口当たりも味もまるで違うって、ここのカキ氷が逆に評判になってるみたいです」
「ああ、それなら俺も見てきたぞ。あれはこの店のカキ氷を宣伝しているようなもんだな」
野太い声で言いながら、領主のエドワードさんが顔を出した。彼もまた見掛けによらず甘党らしく、リピーターになってくれている。
いつも律儀に列に並んで待つのだが、領主は忙しいからという理由をこちらでつけて、先に渡すようにしている。
アワアワしてしまったミチルさんのように、他のお客さんが萎縮するからだ。
いるだけで営業妨害。刮目せよ、これがこの街の領主の力だ。
エドワードさんもそれを分かっているようで、下手に遠慮はせず「すまんな」の一言で済ませて前に出る。誰も文句は言わない。むしろ、どうぞどうぞという感じで、エドワードさんへの尊敬と緊張が見て取れる。
「あの店のカキ氷は、普通より少しキメが細かいというだけだ。舌触りも、味も、接客も、こことは雲泥の差がある。それで同じ価格だからな。話にならん」
「いや、別に張り合ったりしてる訳じゃないんで」
「価格で勝負されなくて良かったっすよ。そっちに流れたお客さんにお腹でも壊されたら面倒っすもん。俺らの所為にされちゃったりとか?」
ヤス君、君は天才か?
ヤス君はこういうところが抜け目ない。俺には思いもよらない受け答えだ。そして、それを言う相手がエドワードさんというのが打算的。
当然、海千山千相手に立ち回ってきたであろうエドワードさんがヤス君の意図に気づかない訳もなく、悪い顔をしてニヤッと笑い鼻を鳴らした。
「それは俺が許さんから安心しろ。お前たちは食堂の基準にしたいほど衛生面に気配りがある。何も心配がない」
「へへへ、言質いただきましたぜ。またご贔屓にっす」
代官と越後屋かよ。いや領主とカキ氷屋だよ。より格差が出たな。
「エドワードさんは、いつも通り二つでいいですかね?」
「ああ、悪いが頼む。見ての通り図体がデカいのでな」
「了解です。はい、お待たせしましたー」
「早いな!」
エドワードさんから銀貨一枚を受け取り、既に仕上がっていたカキ氷を渡す。最前列にいたカップルのお客さんに出すはずだったものだ。それを両手に持ってエドワードさんが立ち去り、少し離れたカウンター席に着く。
元の世界だったら、たったこれだけのことでもニュースで取り上げられて批判されるんだろうなと思いつつ、代金を受け取りカップルにカキ氷を渡す。
カキ氷屋との癒着。最前列のカップルからカキ氷を奪い取る極悪領主。とか見出しにつけて報道されたりしそうだ。馬鹿馬鹿しい。それはそうとして――。
「んー、とても甘党には見えないんだよなぁ」
「お洒落な紳士的ガチムチレスラーって感じっすからね。激辛料理とか、巨大な骨付き肉が似合うイメージっすよ」
「でも半熊人だからね。似合ってると思うよ」
フィルの言葉を聞いて、俺とヤス君がハッとする。
「うっわ、そうだわ」
「一瞬でサーモンとハチミツのイメージに変わったっす」
どうして気づかなかったのだろうか? 何故かは分からないが肩が落ちた。
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