【完結】蓬莱の鏡〜若返ったおっさんが異世界転移して狐人に救われてから色々とありまして〜

月城 亜希人

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アルネスの街編

39.避けるべき猛者への道(1)

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「ダンジョンかー。楽しみっすけど、そうなると準備は必要っすよね」

「ダンジョンに入ることを考えると、一泊は確実にしないといけないかな」

「野宿?」

「宿場町があるから野営の必要はないんだけど、補充品とか食費込みで、金貨二枚は軽く飛ぶと思うよ。装備品とか大丈夫? ねぇ、ユーゴ?」

「大丈夫じゃないって知ってて訊いてるだろ? はぁ、まずはお金だよなぁ」

 リンドウさんの計らいで、無利子な上に、あるとき払いの催促なしという破格な条件の借金を俺たち渡り人三人衆は負っている。

 それ自体は非常に有り難いことなのだが、問題はその借金の半分が一ヶ月分の寮費にあてられているということ。

 つまり、手元のお金では翌月の寮費は支払えない。宿なしになるまでの猶予ゆうよが約四週間しかないということだ。

「食事は昼食分の心配だけしてればいいんすけどね。それでも一日銀貨一枚。手持ちでちょうど一月分。でもそれだけに使う訳じゃないですし」

「冒険者ギルド様々だよな。寮費にこの食堂の朝晩二食が含まれてなかったら俺ら早々に詰んでたぞ」

「その場合はリンドウ金融さんから追加で融資の申し出があったと思うよ。ミチルさんから聞いたけど、本当はもっと多く貸してくれる予定だったらしいし」

「それは受けたくないんだよな。十分世話になったし」

 このアルネスの街では、冒険者ギルド新規登録者に一ヶ月間育成支援金が与えられる制度がある。条件は冒険者ギルドが運営する設備を利用すること。寮と大衆食堂がそれだ。本来の利用金額の半分が負担される。

 リンドウさんから借りたお金が一人あたり寮費で金貨三枚、手元の金貨三枚の計金貨六枚という少額で済んだのはそのお陰だ。

 とはいえ、手元に金貨三枚というのは心許こころもとない。昼食は支援金が適用されず通常価格になるし、絶対に必要な生活消耗品だってある。

 場をわきまえ、この場では誰も話題にしなかったが、古紙は必要不可欠だ。

 お尻は大事。

 木製のヘラや貝殻を洗浄して使い回している冒険者が多いらしいが、不衛生だし、その尻はきっと見るも無惨なことになっているはずだ。

 先端にブラシが付いた通称ケツミガキなる道具もあるが、使った後で洗って保管する気が起きないし、毛もそれなりに硬く形状が歯ブラシなので、俺たちのみならず歯を磨くことに利用している者も多かったりする。

 というか、生活雑貨を扱う店で歯ブラシが欲しいって言ったらケツミガキを出されたんだよな。

 まさか歯も尻もという猛者もさはいないだろう。そう信じたい。

 ちなみに水術で試してみようとしたこともあるが、見えない場所をピンポイントで洗浄するのが難しくて断念。

 もっとも、手を近づければ狙いを定められるのだが、そんなことをすれば飛び散った汚水で諸々再洗浄の必要が出てきてしまうというのは火を見るより明らか。

 元の世界なら汚れたトイレが撮影拡散されて炎上騒ぎに発展するに違いない。俺も魔力と古紙の無駄遣いでヤケクソになる危険は冒せない。

 火とトイレだけにね。

 言葉遊びはひとまず置いて、とにかく古紙の拭き取り枚数が増えてしまうのは本末転倒もいいところ。

 硬めで手触りも悪く、十枚一組で小銅貨一枚もする古紙。それを買う金が無くなれば俺たちも尻猛者の仲間入りを果たすことになる。

 口には出さないが、全員思いは一つ。

 まずは金を稼ぎ、健全な尻ある未来と先の見通しをつける。

 これで話はまとまった。決して猛者にはなるまい。
 
 
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