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アルネスの街編
34.武具店の事情と自由な信仰を話し光の祠で終える(6)
しおりを挟む猛省します! という心の声と共に自分の頬を一発殴る。
「ちょっとユーゴ、何してんの⁉」
「ハハハ、自分の頬を殴ることによって反省していたのだよ」
「大丈夫なのそれ? 凄い音したよ?」
「まぁ、腫れたら腫れたで回復術の練習にでも使えばいいんじゃない? ところで何でレイ・エノーラって店名なんだろうね。レイ&エノーラの方がおしどり夫婦感が出る気がするけど」
「さぁ? 繋げて読ませたいんじゃない? 訊いてみたら?」
「そうだね。話題が尽きたときとかに使うことにするよ。それで、そろそろ十一時だけど?」
「もう着くよ。教会はその角を曲がったところ」
言われたとおりに角を曲がって唖然とした。朱鳥居がある。
「フィルよ、あれは神社というのでは?」
「ああそうそれだ! 言い間違えた!」
元アメリカ人な為、神社という言葉が出てこず教会と言ったのだという。
俺は信仰心の薄い日本人代表なので特に興味もなかったが一応訊いてみたところ、カトリックではなくプロテスタントの家庭で育ったとのこと。
「僕は無神論者だったけど、こうなっちゃったから思いっきり考えを改めたよね。神を敬う気持ちっていうのはまだ全然分かってないけどさ、それは僕の所為じゃなくてエルフの里で育ったからかもしれないなって」
「んー、プロテスタントの家庭で育った無神論者が、ハーフエルフに転生して神の存在を認めはしたけど、自然に感謝する種族の中で育ったから、アニミズムが浸透しちゃったって感じ?」
「言葉にされると、僕って本当に複雑な生き物なんだって思わされるね。でもそうなっちゃったものはしょうがないよね」
朱鳥居の前で一礼してからくぐる。フィルに「何してんの?」と言われたので説明すると渋い顔をされた。
「そういうの良くないと思うよ」
「え、何で?」
「まだ分かってないの? こっちでそんな儀式めいた作法をとる人なんていないんだよ。渡り人だって言い触らしてるようなもんじゃないか」
小声で指摘され、俺はサッと血の気が引く音を聞いた気がした。
正面には境内を竹箒で掃除中の和装の若い男性がいた。白衣と紫色の袴。日本の神社で見る神主に酷似している。その男性が、掃除の手を止めこちらを見ていたのだ。
俺の行為を不審に感じたのかもしれないと思い鼓動が速まる。だが、フィルから指摘を受けて神主らしき男性と見つめ合った数秒後、あちらの方から頭を下げて一礼してくれた。俺が遠くから礼をしたのだと勘違いしてくれたようだ。
ホッと胸を撫で下ろしつつ、境内を歩く。近づくと神主の頭には兎のような耳。袴には白紋が入っていることに気づく。会話できるほどの距離になったところで会釈を交わし挨拶する。
「こんにちは。神職の方ですか?」
「いえいえ、神職だなんてとんでもない。私はただの信徒ですよ。今日が当番というだけです。イノリノミヤ神社にようこそいらっしゃいました。歓迎します」
再度会釈を交わす。俺はまたホッとしていた。危なかった。神主という言葉を迂闊に出さなくてよかったと思う。
軽く話したが、この兎人の青年はイノリノミヤ神教の信徒で結成された信徒会の一員らしく、交代でこの神社の清掃、修繕などを行っているらしい。
「へー、そうなんだ。費用とかどうしてるんですか?」
「こらこらフィル、失礼だから下世話な話はやめなさい。そこは神職の方から出てると考えるのが妥当でしょうが」
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