上 下
67 / 409
アルネスの街編

33.武具店の事情と自由な信仰を話し光の祠で終える(5)

しおりを挟む
 
 
「うわエグ。何それ、めちゃくちゃ怖いんだけど」

「安心しなよ、あの呪符はエノーラさんの店にしかないから」

 フィルによれば、盗難防止用の呪符はエノーラさんの伴侶である人族のレイさんが開発したのだとか。相当な学者肌で、店の奥に引きこもっているとのこと。

 元は王国術師だったらしいが、リンドウさん同様、新王即位後にアルネスの街に移住し、ひょんなことから出会ったエノーラさんから猛アタックされて結婚。すぐに二人でレイ・エノーラ武具店を始めたそうだ。

「それって、なんだかエノーラさんがレイさんの呪符目的だったって風に聞こえるんだけど邪推かね?」

「実際、最初はそうだったらしいよ」

 レイさんはアルネスの街に移住後、生活費や研究資金の為に工房に呪符を売り込みに行っていたらしい。だがそれまでは職人街での工房店頭販売が主流であった為、誰にも相手にされず、途方に暮れていたという。

 そんな折、当時見習いとして職人街の工房にいたエノーラさんと出会った。

 エノーラさんは現在の武具店のような大型店を構想していた為、レイさんの呪符に強く惹かれた。親方に追い返されるレイさんを見て、その場で見習いを辞めることを告げ、レイさんを捕まえ求婚。

 当然、レイさんは困惑したが、エノーラさんが熱意と勢いで説き伏せたという。

「ふーん。で、なんとなく察しはつくけど何で結婚?」

「店を構える為の頭金と借金の保証人」

「ありがとうございました」

 俺はその場で軽く一礼した。これは深堀してはいけない。早めに切ろう。

「いやちょっと待って、まだ終わってないから。恋愛感情のない仕事上のパートナーでいいって話だったのが、二人で一生懸命になってるうちに相思相愛の仲になっちゃったって、いい話なの、これは」

「むしろそうじゃなかったら怖いわ」

 互いのメリットを目的に実態のない結婚をするというのはメロドラマの題材にされたりするが、日本では偽装結婚という立派な犯罪だ。定義が曖昧な部分もあるが、借金の保証人になってもらう為に結婚というのは完全にアウトだろう。

 まぁ、ここは日本じゃないから大丈夫か。あー、でも予想外だったな。渡り人が変革者だと思ってたんだけど……。

 新たな渡り人との出会いがあるかと思ったが、ただこの世界出身の単なる街の変革者と会っただけだった。と、そこで思い直す。

 いや、むしろ凄くないか?

 何も成していない転移者と、この世界の在り方を変えたかもしれないエノーラさんとでは比較にもならない。単なる、という言葉が付くのは俺のような前者の方だ。やはり俺は、この世界を舐めていると覚る。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

異世界で買った奴隷が強すぎるので説明求む!

夜間救急事務受付
ファンタジー
仕事中、気がつくと知らない世界にいた 佐藤 惣一郎(サトウ ソウイチロウ) 安く買った、視力の悪い奴隷の少女に、瓶の底の様な分厚いメガネを与えると めちゃめちゃ強かった! 気軽に読めるので、暇つぶしに是非! 涙あり、笑いあり シリアスなおとぼけ冒険譚! 異世界ラブ冒険ファンタジー!

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。

朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。 婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。 だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。 リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。 「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

小さな天使 公爵のリリス6 天使のクッキー

 (笑)
ファンタジー
リリスが暮らす公爵家の領都に、王都で評判の新しい菓子店が開店し、街の注目を集めます。しかし、リリスが日々通う老舗の菓子店は、急速に客足が減り、存続の危機に瀕していました。老舗の店主のために何とかしたいと考えたリリスは、新しい店に何か違和感を覚え、それを確かめるために行動を起こします。 この物語は、リリスの純粋な心と行動力が街に広がり、思わぬ影響を与えていく過程を描いた感動のエピソードです。リリスの勇気と機転がどのように人々の心を動かすのかが見どころとなっています。

転生者、有名な辺境貴族の元に転生。筋肉こそ、力こそ正義な一家に生まれた良い意味な異端児……三世代ぶりに学園に放り込まれる。

Gai
ファンタジー
不慮の事故で亡くなった後、異世界に転生した高校生、鬼島迅。 そんな彼が生まれ落ちた家は、貴族。 しかし、その家の住人たちは国内でも随一、乱暴者というイメージが染みついている家。 世間のその様なイメージは……あながち間違ってはいない。 そんな一家でも、迅……イシュドはある意味で狂った存在。 そしてイシュドは先々代当主、イシュドにとってひい爺ちゃんにあたる人物に目を付けられ、立派な暴君戦士への道を歩み始める。 「イシュド、学園に通ってくれねぇか」 「へ?」 そんなある日、父親であるアルバから予想外の頼み事をされた。 ※主人公は一先ず五十後半の話で暴れます。

処理中です...