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アルネスの街編
23.忘れてしまうことと思い出したくないこと(3)
しおりを挟む「やめろよ、そんなこと言うの。頭と心の病気になるぞ」
毎回、想像上のコーキがそう言って俺を制した。
いなくなってからも、コーキは俺を救い続けてくれていた。
コーキには四つ下の妹がいた。カナエちゃんという名前で、コーキの家に遊びに行くと必ず俺のところにやってきて「ユーゴ兄ちゃん遊んで」と背中にしがみついてきた。コーキもカナエちゃんが俺に懐いているのを面白がっていた。
コーキが行方不明になってからは、カナエちゃんが公園で一人でいるのをよく見掛けた。マスコミが押し掛けていて家に入れなかったのだ。いつもランドセルを担いだままブランコに座っていて、ぼんやりと足元に伸びた影を見つめていた。
俺が近づくと、決まって飛びついてきて泣き出した。
「ユーゴ兄ちゃん、お家入れないの。だからコーキ兄ちゃん一緒に探して」
その言葉を聞くたび、俺も毎回一緒に泣いた。
カナエちゃんが可哀そうで仕方なくて、コーキがいなくて寂しかった。
二人で公園を歩いてコーキを探した。カナエちゃんを泣き止ませる為のごっこ遊びのようなものだった。馬鹿な子供の俺にはそんなことしかできなかった。
コーキの母親が亡くなったという話を聞いたのはそれから少ししてからだった。縊死だった。見つけたのはカナエちゃんで、ぶら下がった母親の足元に置かれていた遺書を手に、呆然と家から出てきたところを警察に保護されたという話だった。
それを俺は、高校生になるまで知らなかった。同級生から面白がった噂話として聞かされた。
「そんな事件があった呪いの家が近くにあるから行こうぜ」
まるでお化け屋敷にでも行くかのように誘われ、不愉快になって殴った。殴り合いの喧嘩になったが、事情を知った高校側からの処分はなかった。俺はクラスで孤立した。もう気にもならなかった。
コーキの母が亡くなった直前、神経が衰弱しているという話は両親の会話から盗み聞いていた。俺の両親はコーキの両親と仲が良かったので、いつも気に掛けていた。それだけに、悲しい結末と一言で済ませられるようなものではなかった。
コーキの母親が最期に書き遺した手紙には、俺たち家族に対しての感謝の言葉が綴られていた。そこには俺に向けての言葉もあった。
『いつもカナエの面倒を見てくれてありがとう。これからも仲良くしてやってね。コーキと私の代わりに、どうかお願いします』
無責任とは誰も口にしなかった。俺の両親は力になれなかったことを謝り泣いていた。遺書を持って来てくれたコーキの父は、十分すぎるほど力になってもらったと深々と頭を下げていた。カナエちゃんはその場にはいなかった。
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