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アルネスの街編
21.忘れてしまうことと思い出したくないこと(1)
しおりを挟む小学五年生の頃、俺はちょっとしたことでイジメられたことがあった。
原因は、友達の失敗を笑ったこと。
「何が可笑しいんだよ!」と怒鳴られて、謝っても許してもらえなかった。
翌日には、友達があからさまに俺を避けるようになった。怒らせてしまった当人だけでなく、いつも遊んでいた全員が俺と口をきかなくなった。
俺は誰からも話し掛けられず、話し掛けても無視され、近づけば逃げられた。
俺は完全に孤立した。
不愉快な気持ちが俺を塗り潰した。ひそひそと聞こえてくる嘲りの言葉と嘲笑が悲しかった。
それまで友達だと思っていた者たちが、たった一度の失敗で手の平を返したことがではなく、友達がそうなるまで気づけない振る舞いをしていた自分が憐れで悲しかった。
彼らは何も悪くない。十歳の俺は自分を省みていた。
あのたった一度笑ったことだけが、こんな状況を招く原因だったのか?
そんな訳がないと思った。
きっと自分に原因があったのだと思った。
振り返れば思い当たることはいくつもあった。これまで自分がどれだけ友達に不快な思いをさせていたのか、また傷つけてきたのか。それに気づけなかった自分に怒りを覚えた。
そしてひたすら悔しくて、悲しくて、毎日のように泣いていた。
「ユーゴ、一緒に帰ろうぜ」
一週間後の月曜の放課後、そう声を掛けられた。
声を掛けてくれたのは、俺が怒らせた当人だった。俺は驚いたが、強引に促されたので戸惑いながらも従った。途中で酷い目に遭わされるんじゃないかと疑う気持ちもあったが、そんなことは起こらなかった。
「悪かったな。俺の所為で、変なことになっちゃって」
友達の名前はコーキと言った。頭も運動神経も良くて、真面目で、優しい奴。それからクラスの人気者で、まとめ役でもあった。
捻くれ者の俺が素直に自責の念に囚われたのは、多分、コーキが自分より優れているという気持ちが心の片隅にあったからだろう。
コーキが突然謝ったことで俺はより戸惑ったが、それ以上に安堵して泣いてしまった。謝りながら、自分がどれだけ嫌な奴だったか分かったとコーキに伝えた。
「馬鹿、違うよ。ユーゴは悪くないよ。俺が怒った後、あいつらが勝手にユーゴをイジメたんだよ。俺は最初は怒ってたけどさ、ユーゴは一番仲いいからさ、仲直りしたいって思ってたんだ。けど、俺が許さなかったから、怒ってるんじゃないかって思って、声掛けられなかったんだよ。だから、自分のことばっかり考えてて、ユーゴが無視されてるとか、全然気づけなかったんだ。だから、ごめんな」
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