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アルネスの街編

20.食事会の後は同居人との会話で明るい未来予想(6)

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 目に見えてフィルに引かれたので、俺は咳払いで茶を濁す。

 冗談だったのに。

「それはそうとさ、純愛の果てに生まれてきたハーフエルフがいないって本当? 少し考えちゃって」

「んー、エルフと人の恋愛に関してはなくはないと思うけど……」

 フィルいわく、種族の壁を越えて愛し合う二人はいたし、今でも存在しているが、子供を授かったという話は一切聞いたことがないそうだ。

 訊いておいて何だが、実はそこまで興味がなかった。ハーフエルフが稀な存在だという話は既に聞いていたし、別に疑っていた訳でもない。ただ単に引かれたことを何とかしたいと思って適当に喋っただけだ。

 その間に次の話題を考えるつもりだったが、思いのほか早く終わってしまったので、どうしたものかと思いながら、話の接穂つぎほに前世の年齢についても訊いてみた。

「僕の死んだときの歳? 今と同じ二十歳だよ?」

「なんですと⁉」

 現在は前世と合わせて四十歳ということ。しくも俺と同じ。こっちに来たときに若返ったことを伝えると「君は僕以上にまれな存在だね」と笑われた。

 見た目年齢は十歳だが、ヤス君とサクちゃんよりも親近感が湧いた。生まれた場所も環境も違うが、同年代であるという部分は大きいのかもしれない。

「ところで、ユーゴたちはなんで冒険者になろうと思ったの? 神職に就いた方が安全だったのに、敢えて危険な方を選ぶって、変わってるよ」

「いや実は一緒にこっちに来た仲間がちょっと面白い推論を出してね、それを確認しに行く大冒険をしてみたくなった訳だよ。というか、危険ってのはフィルにも言えることなんじゃないの?」

「まぁ、そうなんだけど、それでも僕は伯父さんにお礼を言いたいって思ってるんだよね。もう助けられてから十五年以上経っちゃってるし、伯父さんは五十代くらいになってるのかな? 歳が分からないから、何とも言えないんだけど」

「なるほどねぇ。時間の流れ方が違うって、そういう弊害も出てくるのか。じゃあ、冒険者になった理由も?」

「そうだね。伯父さんくらいしか理由はないね。あとは、いて言えばだけど、エルフの森に引き取られて、愛されて育ったっていう自覚はあるんだけどさ、やっぱり偏見もそれなりにあってね、だから里を出て自立した感じかな」

 フィルはそういった目的も相俟あいまって、物心ついた頃から術を鍛えてきたとのこと。俺はそれを聞いてすぐさま師事を願った。フィルは快く引き受けてくれたが、所持属性は光と風。水はなかった。

 俺が項垂うなだれると、フィルが苦笑してまぁまぁと言う。

「確かに所持している属性は違うけどさ、それでも教えられることはあると思うから。それに、光はこの街の教会で取れるし」

「え⁉ そうなの⁉」

「う、うん。僕もそこで取ったし。もし欲しいなら、明日一緒に行く?」

 俺は一も二もなく「行く!」と叫んで頷いた。フィルがまた引いていたが、知ったことではない。俺は新たな属性、しかも光を得られる歓喜に打ち震えていた。

 これまでどれだけ暗い場所で体をぶつけてきたことか。どれだけ足の小指が衝突事故を起こしてきたことか。

 うぐぁ! と呻いて床に倒れ伏し、悶絶もんぜつしてきた過去がよみがえる。

 明かりがあれば、もうそんな心配はない。

 未来は明るい。

 そうと決まれば、あとは寝るだけ。俺は【異空収納】から浴衣を取り出して素早く着替え、早々に寝床に入った。

「フィル、明日は早いぞ。おやすみ」

「君って結構現金だよね。おやすみ」

 呆れたように肩を竦めて寝床に入ったフィルだったが、五分ほどで静かな寝息が聞こえてきた。俺はというと興奮して寝れなかった。でも仮に起きれなかったとしても、この小さな同居人なら叩き起こしてくれそうだと思った。

 フィルの寝顔を見ていると、金髪の眼鏡を掛けた若く可愛らしい女性に見えた。多分、前世の姿なのだと思う。

 そういう錯視が起きるほど、俺たちは相性が合うのかもしれない。などといい加減なことを思っているうちに、段々と眠気が襲ってきた。
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