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アルネスの街編
16.食事会の後は同居人との会話で明るい未来予想(2)
しおりを挟むエドワードさんが頭を下げ、真面目な顔をして口を開いた。
「リンドウ殿から、ユーゴが来てから肥えたと聞いてな。それで詳しく話を訊いたところ、毎日食事時が楽しみで仕方がない、味わった瞬間から、食べ終えて腹が満たされるときまで、天にも昇る心地だと、そう言われたんだ」
「確かに、ユーゴさんの料理は美味いっす」
「変に凝ってないんだよな。毎日食えるし食べたくなる美味さって凄いよな」
「やめて」
俺はエドワードさんだけでなく、ヤス君とサクちゃんにまで褒め称えられて顔が熱くて両手で覆う。恥ずかしいにもほどがある。
「ほう、そこまでか。俺も一度食べてみたいが……」
「ユーゴさん、お願いします」
「俺からも頼む」
俺は顔を覆ったまま立ち上がり「分かりました、厨房へ案内してください」とお願いし、執事に案内されて、全員で厨房に向かい移動した。
ところで、何故、全員?
廊下を歩きながら総回診のようになってしまったことを疑問に思った。
厨房は日本のレストランなどで使われていても不思議じゃないくらいきちんとしたものだった。魔力で熱を出すコンロのような道具があり、オーブンに似た物もある。調理器具も近代的な設備が揃っていたので、俺はかなり驚いた。
料理人がいなかったのでエドワードさんに訊いたところ、それは雇っていないとのことだった。少しでも多く他に費用を回したいらしく、自分の生活に携わる部分の経費削減に努めているのだとか。俺は賛同したくない行為だ。
「じゃあ、料理は誰がしてるんですか?」
「メイドだ。料理を担当した者が給仕も行う」
ということは、俺は料理を作った初対面の人たちの前で「臭いです」と言い切った訳か。どんな心無いクレーマーだよ。そういうことは最初に言っておいてくれたらもう少しオブラートに包んだ物言いもできるというのに。
俺はエドワードさんから伝えられた事実に愕然としながらも、問題の食材を見せてもらうように頼んだ。
執事が嫌そうな顔をしながら頷き【異空収納】に両手を入れる。そこから引っ張り出されるようにべチャリと調理台に置かれたのは、お世辞にも美しいとは言えないものだった。
深海魚のような雰囲気がある、一メートルほどの、ブヨブヨとした鮫に似た魚。取り出された瞬間、厨房にいる全員が服の袖や腕で鼻を覆い、眉根を寄せる。
これは酷い。なんて臭いだ。
「ユーゴ、これなんだが、どうにかできそうか?」
「いや、まだ何とも。初めて見るものですし。ちなみにこれ、何て魚ですか? 特徴とかもあったら教えてください。ヒントになるかもしれないので」
魚の名前はディーバラというらしい。聞いた瞬間、ディープバラクーダと頭に浮かんだ。
顔つきは鮫なのだが、体つきは確かにカマス。粘膜状のヌメリや水ぶくれた感じは深海魚。
どこかにシャークって言葉も入っていたのが、語呂が悪いから省いたのかもしれないと勝手に思う。これも渡り人が名づけたような気がした。
俺は執事に湯を沸かすようお願いし、メイドたちには必要な調理道具を用意してもらうよう頼む。その間に、術で水を出しながらナイフでディーバラの表面を覆う粘膜をこそぎ落としてしまう。
デロデロと細かい鱗混じりのラメ入りスライムのような塊が出来上がる。
それをゴミ箱にドーン!
頭を落とし、腹を割いて内蔵を取り出し、三枚におろす。手から出る水で表面に付着した血を洗い流し、手拭いでしっかりと水気を拭き取り、バットに置く。
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