【完結】蓬莱の鏡〜若返ったおっさんが異世界転移して狐人に救われてから色々とありまして〜

月城 亜希人

文字の大きさ
上 下
34 / 409
異世界居候編

34.サイコパス扱いされた男に反論の余地なし(2)

しおりを挟む
 
 
 体感、四キロほどか。

 当然、辻馬車はいなかった。最寄りの街でさえここから十六キロほどはあるのだから、来ていたらそれはそれで問題というか、馬のことを心配しただろう。

「あと二十分くらいか」

 サクちゃんが空中を見つめて呟いた。ステボで時刻の確認をしたのだと覚る。

 ここに来るまでの間に、辻馬車の到着時間は聞いていた。スミレさんによると約一時間とのことなので、サクちゃんは差し引きした時間を口にした訳だ。

「思ったより遅いっすよね。馬って時速六十キロとか出るんじゃないんすか」

「重たい馬車を引くし、御者もいるんだからそんなに出る訳ないでしょ。疲れや機嫌もあるから、せいぜい時速十五キロってとこだと思うよ」

「なら、馬車だけリンドウさんが転移術で運んで、御者さんが馬でここまで来ればよかったんじゃないっすか?」

 俺は一瞬硬直する。確かに、と思った。サクちゃんとスミレさんは何かを考えているような素振りを見せる。今の話に穴がないかを探っているのかもしれない。

 少しの間を置いて、ヤス君は話を続ける。

「素人考えっすけど、ここから十五キロ程度なら、馬で駆ければ二十分くらいじゃないんすかね? リンドウさんは馬車だけ持ってここに転移して、馬を待てばよかったんすよ。それなら馬だって俺たちが来るまで十分以上休憩もとれますし、疲労も少ない。俺たちも待たなくていいし、スミレさんだって早く帰れます」

「わ、私のことはお気になさらず」

「た、多分、馬車ごと転移するのは無理なんだろ」

「そ、そうだよ。魔力消費が激しいとかあるんじゃないの?」

「なるほど。そうか。簡単に解体と組み立てができる馬車とかあったら移動速度の革命が起きますね。勿論、転移術者は必要になりますけど、いや、これは馬車に限った話じゃないっすよ。建材とか、面白いっすね。あ、運ぶ物によって魔力消費量が変わるとか、これは一度ちゃんと話を聞いてみたいっすね。ああでも――」

 ヤス君が顎に手を遣ってブツブツと言い始めた。これは鍛練を行うようになってからのヤス君の癖で、考え事をしているときは大体こうなる。オセロ盤を作ったときもこうだった。

 ふと、ヤス君が顔を上げる。

「スミレさん、アルネスの街は左ですよね?」

「あ、はい、そうです」

「辻馬車はどこから出ました? それと、御者さんとスミレさんとは顔見知りだったりします?」

「え、ええ。御者とは知り合いです。辻馬車は、アルネスの街からですけど」

「あ、じゃあ、問題ないっすね。途中で辻馬車と会っても乗せてもらえるんで。歩いたら時間短縮できますし行きましょう。ここだと見通しもよくないし、魔物に奇襲される可能性が高い気がするんで、あんまり長居したくないんすよねー」

 そう言い終えるなり、ヤス君は有無を言わさず歩きだした。

 俺は残った二人と顔を見合わせる。

「俺、全然気づかなかったんだけど」

「私もです。言われてみれば当たり前のことなのですけど」

「うん、反論の余地なしだ。行こう」

 俺たち三人は、慌ててヤス君の後を追った。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

固有スキルガチャで最底辺からの大逆転だモ~モンスターのスキルを使えるようになった俺のお気楽ダンジョンライフ~

うみ
ファンタジー
 恵まれない固有スキルを持って生まれたクラウディオだったが、一人、ダンジョンの一階層で宝箱を漁ることで生計を立てていた。  いつものように一階層を探索していたところ、弱い癖に探索者を続けている彼の態度が気に入らない探索者によって深層に飛ばされてしまう。  モンスターに襲われ絶体絶命のピンチに機転を利かせて切り抜けるも、ただの雑魚モンスター一匹を倒したに過ぎなかった。  そこで、クラウディオは固有スキルを入れ替えるアイテムを手に入れ、大逆転。  モンスターの力を吸収できるようになった彼は深層から無事帰還することができた。  その後、彼と同じように深層に転移した探索者の手助けをしたり、彼を深層に飛ばした探索者にお灸をすえたり、と彼の生活が一変する。  稼いだ金で郊外で隠居生活を送ることを目標に今日もまたダンジョンに挑むクラウディオなのであった。 『箱を開けるモ』 「餌は待てと言ってるだろうに」  とあるイベントでくっついてくることになった生意気なマーモットと共に。

僕と精霊〜The last magic〜

一般人
ファンタジー
 ジャン・バーン(17)と相棒の精霊カーバンクルのパンプ。2人の最後の戦いが今始まろうとしている。

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

流星痕

サヤ
ファンタジー
転生式。 人が、魂の奥底に眠る龍の力と向き合う神聖な儀式。 失敗すればその力に身を焼かれ、命尽きるまで暴れ狂う邪龍と化す。 その儀式を、風の王国グルミウム王ヴァーユが行なった際、民衆の喝采は悲鳴へと変わる。 これは、祖国を失い、再興を望む一人の少女の冒険ファンタジー。 ※一部過激な表現があります。 ―――――――――――――――――――――― 当サイト「花菱」に掲載している小説をぷちリメイクして書いて行こうと思います!

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

処理中です...