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異世界居候編
30.短い間でもこうなるのは人柄が良いのが集うから(3)
しおりを挟む結論、ここの子供たちは天才。
天才といえば一家の大黒柱であるリンドウさん。初日に砂浜で恥ずかしげもなく天才術師を自称した、俺たち渡り人三人の救世主だが、なんと術に関してほとんど何も教えてくれなかった。
何故教えてくれないのかをヤス君の推測に頼ったところ、何か理由があるのだろうから深くは訊かずにおいた方が無難という意見が出たので、ヤス君が言うなら間違いないだろうと黙って過ごしてきた。
そういうこともあり、俺とヤス君は【異空収納】しかまともに使えない。
しかしながらこの術、実は物凄く難しい術だそうで、半月ほど前、三人が三人とも突然使えるようになっている状況を目の当たりにしたリンドウ一家は何が起きたと言わんばかりに呆気にとられていた。
それもそのはず、リンドウ一家では大人三人しか習得できていなかったのである。加えて、リンドウさんたちが習得したばかりの頃の容量と比べ、俺たちの【異空収納】の容量は倍以上あったのだ。
「いつから練習した? 習得に掛かった時間は?」
焦ったような様子のスズランさんにそう訊かれたが、俺たちの答えは五分だった。答えた直後、リンドウさんとスズランさんが膝から崩れ落ち、両手両膝を地面に着けて戦慄いたのには驚いた。
難儀したという話は聞いていたが、割とすぐにできた為に話を盛られたとばかり思っていたのだが「わしの苦労は何やってん……」という悲痛な呟きが聞こえたので、やはり相当に難しいのだとそのときに自覚した次第。
さてその【異空収納】が使えた切っ掛けだが「ある程度魔力量が増えたし、何か適当に試してみようか?」という俺のしょうもない提案だった。あのときは、ヤス君がすぐに乗ってきたんだよな。
「いいっすね! やりましょう! ほら、サクやんも!」
「ああ、分かった分かった」
「何にしよっか?」
「そりゃあ、どうせやるなら、やっぱり【異空収納】だろ」
渋々な感じを出していたサクちゃんが意外にも新たな提案まで持ち込んだことで流れが完成。
これはよい暇潰しになりそうだと、せーの、の掛け声で一斉に手に魔力を込めて念じたら即座にできてしまったという訳だ。
何か出た! と小型の円形ブラックホールのようなものを前に三人で大騒ぎしたのはいい思い出。
習得する術の提案者であるサクちゃんが少し手間取ったが、俺とヤス君でコツがイメージであることを伝えたらすぐにできた。
ちなみに俺は巨大冷蔵庫と真空パック、ヤス君はゲームのアイテムボックスとインベントリをイメージした。
それを伝えた後にできたサクちゃんはコンテナと布団圧縮袋をイメージしたらしい。人それぞれだな、と思う。
そういえばそのとき、サクちゃんは土で棒を作れるようにもなった。普段、武器習熟の為に鍛練で使っている棒をイメージしたらできたという。
俺とヤス君も真似してみたが、生成されたのは歪んだ細い氷柱で、手にしただけで折れてしまうほど脆かった。
サクちゃんの作った棒は鉄のように硬いのに、どうしてなのかという話になったが、ヤス君の推測は「普段使ってる物をモデルにしてるからでしょ」というものだった。
それならヤス君は弓矢をイメージしてみたらどうかと提案したのだが「弦を作るのは無理っぽいですし、矢を氷で作るくらいなら普通に遠距離術を放つ練習した方がいいと思うんすよね」という正論を返された。確かに。
他にも色々とあったが、散文的に思い出される内容を整列させることは難しいしきりもないので、そろそろ現在に思考を切り替えることにする。
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