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異世界居候編
29.短い間でもこうなるのは人柄が良いのが集うから(2)
しおりを挟むヤス君とサツキ君が同じ部屋で暮らすことになった理由はウイナちゃんとサイネちゃんにある。そしてその二人からの要望で、リンドウさんから世話係という役目を与えられた俺とサクちゃんの所為でもある。
リンドウ邸に来て三日目の夜から、俺はサイネちゃんと同じ部屋、サクちゃんはウイナちゃんと同じ部屋で一緒に寝起きしている。つまりヤス君がサツキ君と同じ部屋になったのもその日からということだ。
そのときは、相部屋だったスミレさんが急に弟を取られたような気持ちにならないかと心配していたのだが、それが杞憂に過ぎなかったと知ったのが数日後のこと。
スズランさんと相部屋になったことで夜な夜な女子会を開くようになったそうで「それがもう本当に楽しいんです」と台所で食事の準備をしているときに満面の笑顔で話された。
そのお陰なのかは知らないが、リンドウさんからも感謝された。スズランさんにチクチク言われることが減ったとのことである。
事情は知らないし知りたくもないが、スズランさんも大分溜まっていたのかもしれない。
溜まったといえば、魔素溜まり。この一ヶ月というもの一度も発生していない。
実際には発生しているのだが、リンドウ一家の担当する地域では一度も起こらなかった。
それでも探知能力の高いシラセの二人は反応し、応援が必要になる可能性を考慮して、度々リンドウさんに知らせに走っていた。
その優秀なシラセの一人で、俺と相部屋になったサイネちゃんなのだが、日を追うごとに益々俺に懐いてくれている。
そんなもう周囲を悶死させそうなほどに可愛らしいサイネちゃんは、まだ七歳という年齢にも拘らず非常に賢い。
また学ぶことに貪欲で、俺が遊びで作った四則演算の計算問題をやったことが切っ掛けで算数が大好きになった。
紙や筆記用具が高価な為、暗算で行っていたことが良かったのか、今では加減乗除問わず一桁二桁程度の計算であれば暗算ですんなり行えるほどに成長した。
あってるのです? と上目遣いで心配そうに訊いてくるのがまた可愛らしくて可愛らしくて、俺もついつい問題を出して正誤問わずに猫可愛がりしてしまう癖がついてしまった。
それをサクちゃんに話すと、気持ちが痛いほど分かると言ってくれた。どうやらサクちゃんもウイナちゃんがもう可愛くて仕方がないようだ。
ウイナちゃんの方は算数ではなくダンスを教えられている。サクちゃんが鍛練後に遊びでブレイクダンスとシャッフルダンスを披露したのが切っ掛けだった。
たまたま俺たちの様子を見にやってきていたウイナちゃんが「ど、どうなってるのじゃ? サクヤが走ってるのに進んでないのじゃ!」とランニングマンを目を皿のようにして見ていたのが懐かしい。
今ではウインドミルまでこなせるらしく、サクちゃんは子どもの成長速度に恐怖を感じたと漏らした。それは俺もサイネちゃんで感じていたことだったので、痛いほど気持ちが分かると返した。
とにかく吸収力がすごいのだ。自分たちなどあっという間に空っぽにされてしまう気がする。
そんな話を鍛練中にヤス君にすると「あー、痛いほど分かりますね。俺なんてもうサツキ君とのオセロ負け越してますから」と苦笑しながらの返答があった。
ヤス君はオセロのオンラインゲーム大会で全国一位になったことがあるそうで、俺もリンドウ一家も誰一人として勝ったことがない。なのに知識がないところから半月足らずで勝ち越すサツキ君は一体。
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