上 下
26 / 409
異世界居候編

26.真面目な話はするのも聞くのも難しい(5)

しおりを挟む
 
 
 沈黙。

 僅かな間を置いて、気不味い空気を振り払うようにスズランが口を開いた。

「そもそも、魔素溜まりに魔物が触れない場合もある。その場合は罠を張る魔物自体できん。罠を張る魔物ができたとしても、罠を張った場所に人がいなければ、いや、いても罠に掛からなければ渡り人など現れはしないのだ」

「つまり、俺たちはただ珍しいというのではなく、とんでもなく珍しい存在ということでしょうか?」

 マツバラさんの質問に、リンドウとスズランが「せや」「うむ」と短く声に出し深く首肯する。

「今回は例外中の例外でな。本来は数年で一人保護できるかどうかと言ったところだ。それゆえ、希少だ。そしてその分危険が多い。偽物売りで満足する詐欺師だけならこんな心配をする必要もないのだが、手の施しようがない馬鹿も中にはいるのでな」

「生け捕りにされて、少しずつ肉を削がれて売られたりとかな。血も飲用にとるらしい。希少価値あると、そういうオエッ、こともオエッ」

 リンドウさん⁉

「オエッ、アカン、気持ち悪。自分で言うてサブイボ立ったわ」

 ええ……?

 リンドウが寒さを払うように両手で体を擦り身震いする。それから、んっんんっと咳払いして言葉を続ける。

「ああ、胸糞悪っ。で、うっぷ、話は最初に戻るけどやな、わしらはお前らに、そういった危険から身を守るだけの力を得て欲しいと思っとる訳や」

「無論、無理にとは言わん。だが、選択肢は少ないと思ってもらいたい。こちらから提示する案は三つ。一つ目はマモリ見習いとしてここに残ること。二つ目はアルネスの街で冒険者登録を行い、冒険者として生きること。三つ目はそれ以外の道を模索すること」

「別にマモリを選ばんかったとしても文句は言わんし、協力も惜しまんから安心してくれ。実際、一年くらい前に助けたった娘っ子はそうしたからな」

「ミチルだな。今はアルネスの冒険者ギルドで受付嬢をしている。とはいえ、決して弱くはないぞ。今の君らでは束になっても勝てんほどに強い。ただ心根が優しすぎてな。魔物を殺せなかったのだ」

 魔物を殺せないのに強い、という言葉が引っ掛かる。それでは魂格を上げられなかったということではないのだろうか。

 おそらく、俺と同じ疑問を持ったのだろう、カタセ君が「あの」と挙手して言葉を続けた。

「魔物を殺せなかったって、そのミチルさんは魂格が上がってないってことですよね?」

「せやな。今は知らんけど、ここを出たときのミチルは魂格一のまんまやったな」

「でも、強いんですか?」

 カタセ君の質問に、リンドウとスズランが顔を見合わせ、首を捻る。俺たち渡り人組も、二人が何を理解できないのか分からず戸惑う。

「魂格を上げなくとも、鍛練したら強くはなるだろう? 向こうではそうではないのか?」

「いえ、俺たちのいた世界は――」

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ひだまりを求めて

空野セピ
ファンタジー
惑星「フォルン」 星の誕生と共に精霊が宿り、精霊が世界を創り上げたと言い伝えられている。 精霊達は、世界中の万物に宿り、人間を見守っていると言われている。 しかし、その人間達が長年争い、精霊達は傷付いていき、世界は天変地異と異常気象に包まれていく──。 平凡で長閑な村でいつも通りの生活をするマッドとティミー。 ある日、謎の男「レン」により村が襲撃され、村は甚大な被害が出てしまう。 その男は、ティミーの持つ「あるもの」を狙っていた。 このままだと再びレンが村を襲ってくると考えたマッドとティミーは、レンを追う為に旅に出る決意をする。 世界が天変地異によって、崩壊していく事を知らずに───。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

現代ダンジョンで成り上がり!

カメ
ファンタジー
現代ダンジョンで成り上がる! 現代の世界に大きな地震が全世界同時に起こると共に、全世界にダンジョンが現れた。 舞台はその後の世界。ダンジョンの出現とともに、ステータスが見れる様になり、多くの能力、スキルを持つ人たちが現れる。その人達は冒険者と呼ばれる様になり、ダンジョンから得られる貴重な資源のおかげで稼ぎが多い冒険者は、多くの人から憧れる職業となった。 四ノ宮翔には、いいスキルもステータスもない。ましてや呪いをその身に受ける、呪われた子の称号を持つ存在だ。そんな彼がこの世界でどう生き、成り上がるのか、その冒険が今始まる。

錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。

いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成! この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。 戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。 これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。 彼の行く先は天国か?それとも...? 誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。 小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中! 現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

D○ZNとY○UTUBEとウ○イレでしかサッカーを知らない俺が女子エルフ代表の監督に就任した訳だが

米俵猫太朗
ファンタジー
ただのサッカーマニアである青年ショーキチはひょんな事から異世界へ転移してしまう。 その世界では女性だけが行うサッカーに似た球技「サッカードウ」が普及しており、折りしもエルフ女子がミノタウロス女子に蹂躙されようとしているところであった。 更衣室に乱入してしまった縁からエルフ女子代表を率いる事になった青年は、秘策「Tバック」と「トップレス」戦術を授け戦いに挑む。 果たしてエルフチームはミノタウロスチームに打ち勝ち、敗者に課される謎の儀式「センシャ」を回避できるのか!? この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。

処理中です...