25 / 409
異世界居候編
25.真面目な話はするのも聞くのも難しい(4)
しおりを挟むマツバラさんが挙手する。
「なんや?」
「あの、その肉なんですが、話を聞く限りでは、渡り人のものだという確証が得られないんじゃないですか?」
え、何で? あ、そうか。
確かに偽装し放題だ。牛肉を見たことがない人に牛肉だと嘘を吐いて豚肉を渡しても、渡された方は牛肉を見たことがないから分かることはない。牛肉と豚肉は味も見た目もよく似ているという思い違いをするだけだ。
「あ、あー、ホントだ、そうっすよ! いくらなんでも酷過ぎやしませんか⁉ 別に本物じゃなくても商売が成り立つじゃないっすか!」
「その通りだ」
スズランが険しい顔でそう言って首肯する。
「サクヤの言うとおり、十中八九、偽物やろうな。本物食おうが偽物食おうが、結果は同じなんやから」
「だが問題はそこではない」
「なんや、スズラン。わしら息ぴったりやな」
「喧しい。続けろ」
「へいへい。まぁ、問題は需要があるっちゅうことやな。それも、本物はそれと知る馬鹿がおるから価値が馬鹿高い。お前らからしたら嘘みたいに聞こえるかもしれんけどな、渡り人は、実は珍しい」
「え、いや、結構いるんじゃないっすか? あっちだと行方不明者の数かなり凄いっすよ? 千人とか二千人とか、普通に来て生活してると思ってたんすけど」
俺とマツバラさんも頷く。だがリンドウとスズランは俺たちの様子が気に食わなかったのか、それともどう説明したものかを悩んだのか眉根を寄せた。
「そんなもん、ただ見つからんだけかもしれんし、お前らの世界でおっ死んどる可能性かて大いにあるやろ。ユーゴは助かったけど、食われてもうとる者かておるやろし」
「加えて、仮にそれだけの数が来ていたとしても我々には知りようもない。ただ生存している可能性は極めて低いとは言える。先ほどの話もあるからな」
「そういうことや。あのな、お前ら皆生き残ったし、信じられんのも分かるけど、渡り人がこっちに来たなりに死ぬ確率は凄まじく高いんやぞ。そらものっ凄い高い。わしらが見つけて保護する前に死んどったり、食われとったりはザラや」
「それに、我々が関与できぬ土地に転移する可能性の方が遥かに高い」
「ほんまそれな。イノリノミヤ神教は王国が所有する一帯のみに根付いたもんやからな。わしら神職が守れるんは精々一国分や。この世界の広さを考えれば、どんだけの奇跡がお前らの身に起きたか分かるやろ」
俺は挙手し、そもそもこの世界の広さを知らないと伝える。
「揚げ足取んなや。後で地図見せたるから」
リンドウに切ない顔を向けられた。紛れもない意気消沈。その余りに低い声のトーンに、俺は思わず「すいません」と頭を下げずにいられなかった。
0
お気に入りに追加
435
あなたにおすすめの小説
スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する
カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、
23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。
急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。
完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。
そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。
最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。
すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。
どうやら本当にレベルアップしている模様。
「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」
最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。
他サイトにも掲載しています。


日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~
しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」
病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?!
女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。
そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!?
そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?!
しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。
異世界転生の王道を行く最強無双劇!!!
ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!!
小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~
青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。
彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。
ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。
彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。
これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。
※カクヨムにも投稿しています

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語
Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。
チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。
その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。
さぁ、どん底から這い上がろうか
そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。
少年は英雄への道を歩き始めるのだった。
※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

俺が異世界帰りだと会社の後輩にバレた後の話
猫野 ジム
ファンタジー
会社員(25歳・男)は異世界帰り。現代に帰って来ても魔法が使えるままだった。
バレないようにこっそり使っていたけど、後輩の女性社員にバレてしまった。なぜなら彼女も異世界から帰って来ていて、魔法が使われたことを察知できるから。
『異世界帰り』という共通点があることが分かった二人は後輩からの誘いで仕事終わりに食事をすることに。職場以外で会うのは初めてだった。果たしてどうなるのか?
※ダンジョンやバトルは無く、現代ラブコメに少しだけファンタジー要素が入った作品です
※カクヨム・小説家になろうでも公開しています

S級冒険者の子どもが進む道
干支猫
ファンタジー
【12/26完結】
とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。
父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。
そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。
その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。
魔王とはいったい?
※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる