上 下
23 / 409
異世界居候編

23.真面目な話はするのも聞くのも難しい(2)

しおりを挟む
 
 
 二人が軽く息を吐いて、居住まいを正す。

「順序立てて話すとな、お前ら三人には生きてもらいたい。そういう願いがわしらにはある。何でこんな話をするか、言うたらな、その、スズラン、言うてくれ」

「な、何⁉ 拙者が⁉ き、貴様が言う手筈てはずであろうが!」

「り、臨機応変にやるて言うたやろ」

「そうやって貴様は、いつもいつも、拙者に損な役回りを押し付けて――」

 正した居住まいはどこへやら。それはあたかも子供への接し方で揉める父母の如く、ああでもないこうでもないと二人の言い合いが続く。

 俺たちは何を見せられているのだろうか?

 自分でも驚くほど静観に徹することができた。隣からも気配が消えている気がする。渡り人組は空気になることを選んだのだと覚る。

 ふと、リンドウとスズランが苛烈かれつな言い争いを止めた。この部屋にいるのが自分たちだけではないと思い出したようだ。やや気まずげな素振りを見せた後で、再び居住まいを正して俺たちと向かい合う。

「渡り人の血肉は売買される」

 スズランが言い終えて間もなく稲光いなびかりが走り、ドゴーンと雷のとどろく音が響いた。

 何というタイミング……!

 絶句。

 スズランの表情が腹立たしげに歪む。

「この世界には、度し難い馬鹿がいるのだ」

 話の内容よりも雷の落ちるタイミングに驚いたのはさておき、この言葉を皮切りに、スズランとリンドウが補い合うように話を進めた。

 渡り人は総じて能力が高いという特徴があり、その活躍に基づいた逸話が幾つか存在する。だがそんな逸話の中に一つだけ、渡り人が主人公ではなく、また活躍もしないものがある。

 タイトルは、大帝の最期。

 渡り人を食らうことで力を得ようとした、愚かな大帝ザラスの逸話だ。

 ホウライの肉を食えば不老不死。

 クンルンの肉を食えば不朽不滅。

 いつ、誰がそのような話を出したかについては分かってはいない。ただ、ザラス大帝は実際に存在し、ホウライとクンルンを捕らえ、その血肉のすべてを食らったことが記録として残っているという。

「何も得られず発狂し、心を病んで衰弱死したという事実とともに、な」

 そんな結果が残っているにも拘らず、いまだに渡り人を食べようと目論む馬鹿が大勢いるのだとか。そんな物騒な話を聞いて、俺たちは固唾を飲んだ。

「ど、どうして減らないんっすか?」

「そんなもん、なんぼでも言い掛かりつけれるからに決まっとるやろ。例えば、せやな、ザラス大帝が効果効能を得られんかったんは、ちゃんとした手順を踏まんかったからや、とかな」

「手順って、その、食べ方のですか?」

「うむ。ある者は儀式が要ると言い、またある者は生贄が要ると言う。あるいはその両方が必要だと抜かす輩までもがいる。他にも、生で食べねばならぬとか、二日三日おいて熟成させねばならぬとか、果てはテーブルマナーまである」

「テーブルマナー……!」

 渡り人組が驚愕の声を揃えた。

 どのようなものなのか非常に興味があったが、二人に目配せをすると、神経を疑うような顔でかぶりを振られた。

 話が進まないからめておけこのサイコパスと彼らの目が言っていた。
 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

異世界で買った奴隷が強すぎるので説明求む!

夜間救急事務受付
ファンタジー
仕事中、気がつくと知らない世界にいた 佐藤 惣一郎(サトウ ソウイチロウ) 安く買った、視力の悪い奴隷の少女に、瓶の底の様な分厚いメガネを与えると めちゃめちゃ強かった! 気軽に読めるので、暇つぶしに是非! 涙あり、笑いあり シリアスなおとぼけ冒険譚! 異世界ラブ冒険ファンタジー!

冷遇ですか?違います、厚遇すぎる程に義妹と婚約者に溺愛されてます!

ユウ
ファンタジー
トリアノン公爵令嬢のエリーゼは秀でた才能もなく凡庸な令嬢だった。 反対に次女のマリアンヌは社交界の華で、弟のハイネは公爵家の跡継ぎとして期待されていた。 嫁ぎ先も決まらず公爵家のお荷物と言われていた最中ようやく第一王子との婚約がまとまり、その後に妹のマリアンヌの婚約が決まるも、相手はスチュアート伯爵家からだった。 華麗なる一族とまで呼ばれる一族であるが相手は伯爵家。 マリアンヌは格下に嫁ぐなんて論外だと我儘を言い、エリーゼが身代わりに嫁ぐことになった。 しかしその数か月後、妹から婚約者を寝取り略奪した最低な姉という噂が流れだしてしまい、社交界では爪はじきに合うも。 伯爵家はエリーゼを溺愛していた。 その一方でこれまで姉を踏み台にしていたマリアンヌは何をしても上手く行かず義妹とも折り合いが悪く苛立ちを抱えていた。 なのに、伯爵家で大事にされている姉を見て激怒する。 「お姉様は不幸がお似合いよ…何で幸せそうにしているのよ!」 本性を露わにして姉の幸福を妬むのだが――。

器用さんと頑張り屋さんは異世界へ 〜魔剣の正しい作り方〜

白銀六花
ファンタジー
理科室に描かれた魔法陣。 光を放つ床に目を瞑る器用さんと頑張り屋さん。 目を開いてみればそこは異世界だった! 魔法のある世界で赤ちゃん並みの魔力を持つ二人は武器を作る。 あれ?武器作りって楽しいんじゃない? 武器を作って素手で戦う器用さんと、武器を振るって無双する頑張り屋さんの異世界生活。 なろうでも掲載中です。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

空間魔法って実は凄いんです

真理亜
ファンタジー
伯爵令嬢のカリナは10歳の誕生日に実の父親から勘当される。後継者には浮気相手の継母の娘ダリヤが指名された。そして家に置いて欲しければ使用人として働けと言われ、屋根裏部屋に押し込まれた。普通のご令嬢ならここで絶望に打ちひしがれるところだが、カリナは違った。「その言葉を待ってました!」実の母マリナから託された伯爵家の財産。その金庫の鍵はカリナの身に不幸が訪れた時。まさに今がその瞬間。虐待される前にスタコラサッサと逃げ出します。あとは野となれ山となれ。空間魔法を駆使して冒険者として生きていくので何も問題ありません。婚約者のイアンのことだけが気掛かりだけど、私の事は死んだ者と思って忘れて下さい。しばらくは恋愛してる暇なんかないと思ってたら、成り行きで隣国の王子様を助けちゃったら、なぜか懐かれました。しかも元婚約者のイアンがまだ私の事を探してるって? いやこれどーなっちゃうの!?

外れスキルと馬鹿にされた【経験値固定】は実はチートスキルだった件

霜月雹花
ファンタジー
 15歳を迎えた者は神よりスキルを授かる。  どんなスキルを得られたのか神殿で確認した少年、アルフレッドは【経験値固定】という訳の分からないスキルだけを授かり、無能として扱われた。  そして一年後、一つ下の妹が才能がある者だと分かるとアルフレッドは家から追放処分となった。  しかし、一年という歳月があったおかげで覚悟が決まっていたアルフレッドは動揺する事なく、今後の生活基盤として冒険者になろうと考えていた。 「スキルが一つですか? それも攻撃系でも魔法系のスキルでもないスキル……すみませんが、それでは冒険者として務まらないと思うので登録は出来ません」  だがそこで待っていたのは、無能なアルフレッドは冒険者にすらなれないという現実だった。  受付との会話を聞いていた冒険者達から逃げるようにギルドを出ていき、これからどうしようと悩んでいると目の前で苦しんでいる老人が目に入った。  アルフレッドとその老人、この出会いにより無能な少年として終わるはずだったアルフレッドの人生は大きく変わる事となった。 2024/10/05 HOT男性向けランキング一位。

私は逃げます

恵葉
ファンタジー
ブラック企業で社畜なんてやっていたら、23歳で血反吐を吐いて、死んじゃった…と思ったら、異世界へ転生してしまったOLです。 そしてこれまたありがちな、貴族令嬢として転生してしまったのですが、運命から…ではなく、文字通り物理的に逃げます。 貴族のあれやこれやなんて、構っていられません! 今度こそ好きなように生きます!

処理中です...