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異世界居候編
23.真面目な話はするのも聞くのも難しい(2)
しおりを挟む二人が軽く息を吐いて、居住まいを正す。
「順序立てて話すとな、お前ら三人には生きてもらいたい。そういう願いがわしらにはある。何でこんな話をするか、言うたらな、その、スズラン、言うてくれ」
「な、何⁉ 拙者が⁉ き、貴様が言う手筈であろうが!」
「り、臨機応変にやるて言うたやろ」
「そうやって貴様は、いつもいつも、拙者に損な役回りを押し付けて――」
正した居住まいはどこへやら。それはあたかも子供への接し方で揉める父母の如く、ああでもないこうでもないと二人の言い合いが続く。
俺たちは何を見せられているのだろうか?
自分でも驚くほど静観に徹することができた。隣からも気配が消えている気がする。渡り人組は空気になることを選んだのだと覚る。
ふと、リンドウとスズランが苛烈な言い争いを止めた。この部屋にいるのが自分たちだけではないと思い出したようだ。やや気まずげな素振りを見せた後で、再び居住まいを正して俺たちと向かい合う。
「渡り人の血肉は売買される」
スズランが言い終えて間もなく稲光が走り、ドゴーンと雷の轟く音が響いた。
何というタイミング……!
絶句。
スズランの表情が腹立たしげに歪む。
「この世界には、度し難い馬鹿がいるのだ」
話の内容よりも雷の落ちるタイミングに驚いたのはさておき、この言葉を皮切りに、スズランとリンドウが補い合うように話を進めた。
渡り人は総じて能力が高いという特徴があり、その活躍に基づいた逸話が幾つか存在する。だがそんな逸話の中に一つだけ、渡り人が主人公ではなく、また活躍もしないものがある。
タイトルは、大帝の最期。
渡り人を食らうことで力を得ようとした、愚かな大帝ザラスの逸話だ。
ホウライの肉を食えば不老不死。
クンルンの肉を食えば不朽不滅。
いつ、誰がそのような話を出したかについては分かってはいない。ただ、ザラス大帝は実際に存在し、ホウライとクンルンを捕らえ、その血肉のすべてを食らったことが記録として残っているという。
「何も得られず発狂し、心を病んで衰弱死したという事実とともに、な」
そんな結果が残っているにも拘らず、いまだに渡り人を食べようと目論む馬鹿が大勢いるのだとか。そんな物騒な話を聞いて、俺たちは固唾を飲んだ。
「ど、どうして減らないんっすか?」
「そんなもん、なんぼでも言い掛かりつけれるからに決まっとるやろ。例えば、せやな、ザラス大帝が効果効能を得られんかったんは、ちゃんとした手順を踏まんかったからや、とかな」
「手順って、その、食べ方のですか?」
「うむ。ある者は儀式が要ると言い、またある者は生贄が要ると言う。或いはその両方が必要だと抜かす輩までもがいる。他にも、生で食べねばならぬとか、二日三日おいて熟成させねばならぬとか、果てはテーブルマナーまである」
「テーブルマナー……!」
渡り人組が驚愕の声を揃えた。
どのようなものなのか非常に興味があったが、二人に目配せをすると、神経を疑うような顔でかぶりを振られた。
話が進まないから止めておけこのサイコパスと彼らの目が言っていた。
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