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異世界居候編
13.厨房より台所で可愛く揺れる尻尾(2)
しおりを挟むイノリノミヤ神教のない場所には、当然、神職もいないので、また違った対処が取られているのだろうとリンドウは言った。
「それがどんな方法なんかは訊くなや。わしはこのやり方しか知らんからな。ま、色んな宗教あるけど、ミヤ様に仕えるんが一番ええと思うわ。教義と戒律は要約すると『優しさを振り撒いて自由に面白可笑しく生きましょう』やで」
祝詞や経のようなものはなく、お布施も禁じられているそうだ。お金が欲しければ自分で魔物の間引きをして、素材を売って稼げという教えで、自分が稼いだお金であれば贅沢しても構わないとのこと。
そして、下手なことをすると天罰がくだるらしい。
凄い神様もいたものだと思う。
そんなつい先ほど経験したことを思い返しながら、俺はリンドウ邸の厨房に立っている。カタセ君とマツバラさんはいない。今頃二人は与えられた部屋でくつろいでいることだろう。
こうなったことの発端は、俺が余計なことを口走ったことにある。昼食時に、ショウガありますか? からの、料理できるんか? の流れ。それで夕食を任されてしまったのだ。
ショウガで通じたことに若干驚きはしたが、先の話の通り、異世界だからで済ませられる問題だ。深くは考えずにマモリ見習いの二人と一緒に料理の準備を始めている。
厨房は昔の日本という感じで、台所と表現した方がいいかもしれない。土間にかまどがあり、側には積み上げられた薪。勝手口近くに、流し場と排水路が設けてある。ただ、水道がない。
サツキにそのことについて訊いたが、スミレが答えた。術で水を出すらしい。そのついでのように、サツキが話せないことを知らされた。
「舌を抜かれてしまったので」
え?
耳を疑った。体に太いミミズ腫れのようになって残った傷跡から、サツキが酷い扱いを受けたのだということは察していた。だが、そこまでとは思っていなかった。
想像を遥かに超える酷い仕打ちを受けていたことを知り、俺は狼狽える。
「気にしないでください。もう終わったことです」
スミレが困ったように笑って言った。側にいるサツキも同じような顔をしている。
二人から明らかな気遣いを受けてしまい、なんとも情けなくなる。二人にそうさせるほど、酷い顔をしていたに違いない。まったく何をしているのか。
一度、自分の頬を両手で挟むように叩き、気合を入れる。スミレとサツキは驚いていたが、俺が「よし」と笑顔を向けるとホッとしたように微笑んだ。
「それじゃあ、始めますか!」
まずは手拭いを被って髪を覆い隠す。喧嘩被りだ。スミレとサツキは初めて見るようだったので、やり方を教えた。といっても被って後ろで縛るだけなのだが。
材料と必要な道具に関しては、既にリンドウにお願いしたものが用意してある。ないものは最寄りのアルネスの街とやらで買い足してもらった。
そういうこともあって他の料理は問題なかったのだが、昼食に出たワイルドスタンプの肉は俺の頭を悩ませた。
以前解体したものをスミレが【異空収納】で保管しているというので見せてもらったが、血抜きが不十分なのか生の状態でもかなりの獣臭と血生臭さがあり、正直ショウガだけでどうこうできる気がしなかった。
収納状態のときは時間が停止しているらしいので、腐敗の心配はない。取り敢えず、水に漬けてふやかした後でサッと湯掻いてトリミングしてみようと思う。食感や味は二の次。臭いが取れなければ話にならない。
米に関してはサツキに任せた。知識はあるが実際に窯焚きをした経験はないので、俺はやり方を教わる方に徹した。
窯焚きを見学しつつ、昆布と魚のアラで出汁を取っていると、サイネが覗いていることに気づいた。目が合うとすぐに隠れてしまったので、その後は気づかない振りをして調理を進めた。
視界の端で、ゆらゆら揺れている尻尾が可愛らしかった。
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