【完結】蓬莱の鏡〜若返ったおっさんが異世界転移して狐人に救われてから色々とありまして〜

月城 亜希人

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異世界居候編

9.はじめましてとお邪魔します(2)

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 スズランが、困った連中だ、といった具合に苦笑する。

「通り抜けられただけで十分だ。悪心があると通り抜けられないようになっているからな。拙者も安心した」

「通り抜けられなかった場合はどうなるんです?」

 迷う、とスズランがにべもなく答えて歩き出す。俺たちも慌てて追い掛ける。

「リンドウが用意したものだから仕組みについては知らんが、結界に触れると意図せず体の向きが変わるらしい。真っ直ぐ歩いているつもりが、いつの間にか逆の方へと進むことになるそうだ。その際に景色の変化にも気づけなくなる効果もあると言っていたな。方向感覚も狂うとか言っておったような気がする」

 性格の悪さが滲み出た悪辣な結界だな、おい。

 だが俺が訊きたいのはそういうことではなかった。言葉というのは本当に難しい。そういえば話も通じているが、その理由を考えたところで分かりそうもないので意識の外へ追いやった。今は訊きたいことに集中しよう。

「すいません、ちょっと言葉が足らなかったです。通り抜けられなかった場合、俺たちはどう扱われていたのかな、と」

「ああ、そういうことか。それはリンドウ次第だな。最寄りのアルネスの街まで送るか、結界の効果を緩めるか。いずれにせよ、我々マモリには渡り人の力になるよう努めるという教えがあるからな。悪いようにはせんよ」

 さて、着いたぞ。とスズランが言った。切り立った崖のような苔むした岩壁に、上りの石階段がある。スズランが上り始めたので後に続く。段数が多くて結構キツい。運動不足だったと反省。今日は歩き通しだな。朝飯も食べてないのに。

 腹が減ったなと思いながら、どうにかこうにか上った先には朱鳥居。その奥には神社のような建物。賽銭箱と本坪鈴も見えるが、中央ではなく脇にある。

 なんかおかしくないか?

 俺は息を整えながら口を開いた。

「すいません、スズランさん、何かちょっとおかしく感じるんですけど、賽銭箱と本坪鈴の位置はあれでいいんですかね?」

「ん? サイセンバコ? ああ、あれは不用品の回収箱だ。あそこに不用品を入れておくと、リンドウが転移術で街の回収業者のところまで運んでくれるのだ。それと、ホンツボスズというのは、あの呼び鈴のことだな。何かおかしなところがあるか? 玄関口を塞がないようにしてあるのだが」

「呼び鈴でけぇっすね……」

「不用品の回収箱……」

 神社ではなく、神社風の邸宅だった。

 木々に囲まれた広い境内でそんな話をしながら佇んでいると、木陰にリンドウとウイナ、サイネ、そして見知らぬ青年が一人現れた。

 薄手のナイロンパーカーとレギンスにハーフパンツ。黒髪黒目で、親近感の湧く顔立ち。青年はこちらに気づくと、軽く頭を下げた。共にTシャツにジャージ姿の俺とカタセ君は一旦顔を見合わせてから、彼に向き直り会釈する。登山靴を履いているし、登山中にこちらに転移してきた人のようだと察する。

「おお、もう着いとったんか」

 リンドウが歩み寄ってくる。サイネがその後にちょこちょこ続き、ウイナが「いくのじゃ」と青年の手を引いてやってくる。

「おい、まさかまたいたのか?」

「ほんまそれ。こんなこともあるんやなぁ。ああ、兄ちゃんら、この兄ちゃんもあんたらと同じとこから来た渡り人や」

 俺たち渡り人と呼ばれる転移者組はもう一度会釈えしゃくを交わす。

 こうして集うと分かるが、全員でかくて威圧感がある。リンドウ含め、男性陣の身長は一八〇センチくらいはある。

「あ、どうも、ユーゴ・カガミです。歳は……十九です」

「ヤスヒト・カタセです。二十二です」

「サクヤ・マツバラです。二十五です」

 何故か姓名を逆にしたアメリカンな自己紹介を済ませ、微妙な空気が流れたところで腹の音が鳴った。すぐ隣から聞こえたので、カタセ君が鳴らしたのだと分かったが、さして間を置かずに俺の腹も鳴った。

 その場にいる全員が声を抑えて笑ったが、リンドウだけは哄笑こうしょうした。遠慮なく笑い飛ばしてくれて、恥ずかしい思いをしたこちらとしてはありがたかった。

「まぁ、もう昼やしな。そら鳴るわ。取り敢えず飯やな」

 リンドウが俺たちに手を向ける。すると突然、強風が吹いた。まとわりつくように体を巡り、さっと吹き抜ける。何が起きたのか分からず混乱していると、リンドウが二度手を叩き「はい注目」と言った。

「そんなに慌てんでもええ。汗やら砂やらど偉い汚れとったから術で身綺麗にさせてもろただけや。あーほんで、ユーゴとヤスヒトは裸足やから、今から渡す手拭いでしっかり足拭いてから家に上がってくれ。サクヤは玄関で履き物脱いでくれな。家は土足厳禁やからな」

 さも当たり前のように言って、リンドウが神社風の邸宅に向かう。その後ろ姿を見ながら、俺たちはまたも呆然と佇んで、はいと答えることしかできなかった。
 
 
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