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異世界居候編

7.狐とステボと前科持ち(4)

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 俺もステータスボードを出しっぱなしにしているが、指摘されない。設定を変えていないから見えていないということか。本当に見えてないんだな。不思議。

「説明も受けずにステボを出し、あまつさえ設定まで変える者など初めて見たから疑ったが、種族がホウライになっているから渡り人で間違いないな」

 スズランが「だが」と言ってカタセ君に顔を向ける。

「ステボは他人においそれと見せるものではない。鍛えていないうちは特にな。早々に設定を戻しておくことを勧めるぞ。ヤスヒト殿」

「へ、へぇ。やっぱりそうなんですね。気をつけます。ステータスクローズ」

 やっぱりって何?

 えてこういう状況にして、指摘されるかどうかを試したとでも言いたげな台詞を吐くカタセ君。俺と目が合うと、気まずそうに顔を背けた。

 気の毒なので見なかったことにして、俺もステータスボードを消すことにした。

 そういえば、ステボって省略してたな。

 試しに口に出さず、ステボクローズと省略して心で唱えてみたところ、ちゃんと消えた。どうやら口に出す必要もないようだと覚る。

 面白い。年甲斐もなくワクワクしてきた。説明書のないゲームのようだ。

 融通が利くようなので、後で色々と試してみようと思う。

「さて、ヤスヒト殿……と、そちらの」

「カ、ゴホン、ユーゴです」

 条件反射というか、体に染みついた感覚に従って思わず姓を言いそうになったが、咳払せきばらいで誤魔化ごまかして名前を伝えた。

 ステボで姓名確認をされたカタセ君が名前で呼ばれているのだから、なんとなく俺も名前にしておいた方が無難ぶなんだと思った。

「ユーゴ殿、こちらは屋敷に案内するつもりでいるが、よろしいだろうか?」

 カタセ君に目を遣る。図らずも目が合ったので、俺は手振りで返事を譲った。

「じゃあ、お願いします」

 カタセ君が軽く頭を下げる。俺もそれに倣い、お願いしますと続ける。するとスズランが胸を撫で下ろすように息を吐いた。

「良かった。断られたら力尽くで連れてこいとリンドウに言われていたのでな。素直に聞いてくれて助かった。拙者、前科持ち故」

 前科持ち?

 不穏な言葉を口にしたにもかかわらず、スズランは照れたように笑う。

「以前、こちらに来たばかりの渡り人を死なせてしまったことがあってな。御二人とは違い不遜ふそんな若者だったが、まさか手刀で首が落ちるとは思わなかった」

 話の内容に血の気が引く。おそらく表情にも出ていると思うのだが、スズランはまるで意に介した様子がない。

 カタセ君をうかがい見ると、顔色が悪い上に脂汗あぶらあせが浮いていた。だがまし顔。俺も似たような感じなのだろう。カタセ君のあわれむような目がそれを物語っていた。

「では行こう。ついてきてくれ」

 背を向けて歩き出すスズランに俺たちは追従ついじゅうする。裸足なのだが、大丈夫だろうか。かぶれる草とか生えてないだろうか。足の裏がかゆいのは最悪だぞ。

「不遜ってだけで首を切るって――」

 カタセ君が小声で俺に話し掛けたのだが、スズランにはしっかり聞こえていたようで、前からさえぎるように声がやってきた。

「そうではない。多少は腕に覚えがあったのだろう。話しているうちに目つきが怪しくなってきてな、舌舐めずりしたかと思うと襲い掛かってきたのだ」

 ああ、そういうことか。その男は妙な気を起こしたってことね。

「美人だもんね」

「モデル並っすよね」

 より注意深く二人で耳打ちし合い、何度か細かく頷いていると、不意に「む」と呟いてスズランが足を止めた。

 俺たちも足を止め、もしかして聞こえたか、と二人で顔を見合わせる。だが先ほどのように何かを言われることもない。

 どうしたんだ? まさか迷ったとかじゃないよな?

 小首をひねって視線を正面に戻すと、木立の間から草のれる音が近づき、軽自動車くらいあるイノシシがのっそりと姿を現した。

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