4 / 409
異世界居候編
4.狐とステボと前科持ち(1)
しおりを挟む「あ痛たっ」
という声が思わず出たが、痛みなど気にしていられない。すぐに顔を上げて着流し姿の青年を目で追う。
「ウイナ、サイネ!」
「任せるのじゃ!」
「お任せなのです!」
女の子たちが青年に返事をし、向かい合って互いの両手の平を合わせる。
「【神楽舞台】!」
二人が可愛らしい声で元気よく唱える。と、砂浜に神宮などで目にする舞台が生じた。
「な、何だありゃ」
呆気に取られている間に、三人が舞台に跳び乗る。
青年が横笛を吹き始める。その篠笛に似た和の音色が辺りに響き渡るや否や、女の子たちが神楽鈴を手に舞い始めた。
片足で二度跳ねて、両足で着地。半回転して同じことを繰り返す。場を動かずにケンケンパをしているような感じだ。
いや、しかしあれは……。
三人とも淡い金髪なのは置いておくとして、頭頂部の左右に狐を思わせる耳があり、尻にもやはり狐のような、ぽってりした膨らみのある尻尾が生えているのはどういうことなのか。
「コスプレ、じゃなさそうっすね」
「うん。諸々説明できないことが起きてるよ。会社に連絡したいんだけど」
「何言ってんすか。それどころじゃないっすよ」
俺が状況に混乱しているうちに、海から巨大な黒い塊が持ち上がる。
その歪な球状の黒塊はまるで吸い上げられるようにして上空に向かい伸びていき、か細い糸のようになって消失した。
「あー! リンドウ、また出たのじゃ! 魔素溜まりの反応じゃ!」
「はぁ⁉ 今終わったばっかりやんか!」
「そ、そんなことウイナに言われても困るのじゃ」
「凹むなや! 機嫌直してくれ! ええい次から次へと出くさりよってからに! サイネ! 今度はどこや!」
「レンゲ山なのです! 中腹に反応があるのです!」
「国境付近やないか! ミヤ様来てくれるんかいな⁉」
「来てもらえなかったら、一家総動員して散らすしかないのです!」
「ええい! 渡り人もおんのに! いくらわしが天才術師やいうてもやな、なんぼなんでも限度があるやろ!」
リンドウと呼ばれた青年が不機嫌そうな顔をこちらに向ける。
「ぬあああ! おいそこの二人! 迎え来させるから、そこでおとなしゅうしとってくれや! 絶対に動くんやないで! これ振りやないからな!」
リンドウは、ウイナとサイネを手招きして呼び寄せると、即座に抱えて地面に沈むように一瞬で姿を消した。
「消えた」
「消えましたね」
「うわ、何かもう、何なんだこれ、あり得ないって」
「そっすね……ステータスオープン」
俺が頭を抱えた直後、不意にカタセ君が謎の言葉を呟く。
何言ってんの? と思ったが、カタセ君の顔に驚愕と喜色めいたものが浮かぶ。
「ど、どしたの?」
「ど、どうしたもこうしたも、見えないんですか⁉」
「な、何が?」
「これですよ、これ!」
カタセ君が興奮した様子で目の前を指差す。俺には何も見えず困惑する。首を傾げて渋面を作って見せると、カタセ君が思いついたような素振りを見せた。
「そうだ、そうっすよ! カガミさんも言えばいいんすよ!」
「え、何を?」
「ステータスオープンって!」
詰め寄られて、少しばかり恐怖を感じる。
嘘を言っているようには見えないが……。
0
お気に入りに追加
435
あなたにおすすめの小説
スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する
カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、
23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。
急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。
完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。
そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。
最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。
すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。
どうやら本当にレベルアップしている模様。
「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」
最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。
他サイトにも掲載しています。
異世界で穴掘ってます!
KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

俺が異世界帰りだと会社の後輩にバレた後の話
猫野 ジム
ファンタジー
会社員(25歳・男)は異世界帰り。現代に帰って来ても魔法が使えるままだった。
バレないようにこっそり使っていたけど、後輩の女性社員にバレてしまった。なぜなら彼女も異世界から帰って来ていて、魔法が使われたことを察知できるから。
『異世界帰り』という共通点があることが分かった二人は後輩からの誘いで仕事終わりに食事をすることに。職場以外で会うのは初めてだった。果たしてどうなるのか?
※ダンジョンやバトルは無く、現代ラブコメに少しだけファンタジー要素が入った作品です
※カクヨム・小説家になろうでも公開しています

固有スキルガチャで最底辺からの大逆転だモ~モンスターのスキルを使えるようになった俺のお気楽ダンジョンライフ~
うみ
ファンタジー
恵まれない固有スキルを持って生まれたクラウディオだったが、一人、ダンジョンの一階層で宝箱を漁ることで生計を立てていた。
いつものように一階層を探索していたところ、弱い癖に探索者を続けている彼の態度が気に入らない探索者によって深層に飛ばされてしまう。
モンスターに襲われ絶体絶命のピンチに機転を利かせて切り抜けるも、ただの雑魚モンスター一匹を倒したに過ぎなかった。
そこで、クラウディオは固有スキルを入れ替えるアイテムを手に入れ、大逆転。
モンスターの力を吸収できるようになった彼は深層から無事帰還することができた。
その後、彼と同じように深層に転移した探索者の手助けをしたり、彼を深層に飛ばした探索者にお灸をすえたり、と彼の生活が一変する。
稼いだ金で郊外で隠居生活を送ることを目標に今日もまたダンジョンに挑むクラウディオなのであった。
『箱を開けるモ』
「餌は待てと言ってるだろうに」
とあるイベントでくっついてくることになった生意気なマーモットと共に。

異世界ハズレモノ英雄譚〜無能ステータスと言われた俺が、ざまぁ見せつけながらのし上がっていくってよ!〜
mitsuzoエンターテインメンツ
ファンタジー
【週三日(月・水・金)投稿 基本12:00〜14:00】
異世界にクラスメートと共に召喚された瑛二。
『ハズレモノ』という聞いたこともない称号を得るが、その低スペックなステータスを見て、皆からハズレ称号とバカにされ、それどころか邪魔者扱いされ殺されそうに⋯⋯。
しかし、実は『超チートな称号』であることがわかった瑛二は、そこから自分をバカにした者や殺そうとした者に対して、圧倒的な力を隠しつつ、ざまぁを展開していく。
そして、そのざまぁは図らずも人類の命運を握るまでのものへと発展していくことに⋯⋯。

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?
サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。
*この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。
**週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる