27 / 29
ルルモア大学三年生~卒業編
3
しおりを挟む
その一件以来、ブラウンは他の生徒たちから後ろ指を差される生活を送っていました。だから箝口令などという発想が出た訳ですが、それを敷くには国王の権力が必要です。つまり事情を話さねばなりません。
しかしながら、衆目の前で失禁脱糞をしたと話せば、王位継承権を放棄させられるおそれもあります。そうならなくとも、そんなことで権力を行使したと知れたらそれこそ物笑いの種でしょう。
ブラウンも愚かではありませんのでそれを分かっています。自業自得であるとも分かった上でそこから目を背けていました。
とにかく、何かに敵意を向けていなければ、自分を保つのが難しかったのです。結果を見ればむしろいろいろと含めてアルベルトに感謝せねばならない程なのですが、そこに思い至れる程ブラウンは人間ができていませんでした。
そもそも、王族であろうが一夫一婦制が基本の国内で女性三人に同時に恋心を抱いているという時点で人間ができていないので今更なのですが。
さて、そんなブラウンは相変わらずアルベルトをじっと見つめていました。同じ王族ですので、幼馴染です。アルベルトが大笑いしたのも弟のように思っていたからでした。ですがブラウンはアルベルトを兄のようには思っていません。昔から張り合って負け続けてきています。ブラウンにとってアルベルトは越えるべき壁でした。
(アルベルト、君は忘れているのかもしれないが、僕はやられたらやり返す男だよ)
ブラウンは何かで劣った場合、別の何かでアルベルトに復讐を果たし心のバランスを取ってきました。清算せねば気が済まないタイプなのです。ゆえに、既に仕込みは済んでいました。
あろうことか、ブラウンは権力を笠に着て食堂のおばちゃんを脅迫し、アルベルトたちの昼食に毒を盛っていたのです。その反応が出るのを、ブラウンはじっと待っていました。
ぎゅるるるる、という音が響きました。直後、アルベルトとメイ、ジュリーがお腹を押さえ、情けない声を上げながら顔を顰めて青くします。
「あら? 皆さま、どうなさったの?」
エイプリルだけは平然とそう訊ねます。
「は、腹が……」
「エ、エイプリル様、申し訳ありませんが、お手洗いまで、運んでいただけません?」
「痛くて、う、動けん」
全員、同じ物を食べているのですが、エイプリルには毒が効いた様子がありません。
(な、なぜ効かない⁉)
ブラウンは戸惑いに震えました。苦しむ女子たちの前に颯爽と現れて、胃薬と称して解毒剤を渡して感謝され、数に限りがあると偽りアルベルトに失禁脱糞させるという一石二鳥の復讐計画だったのですが、思惑が外れました。
「ふむ……これは毒ですわね。アタクシは普段から毒を摂取して内臓を鍛えておりますからよく味合わなければ気づきませんでしたわ」
エイプリルの種明かしにブラウンは驚愕し、思わず目を剥き立ち上がります。それが悲劇の始まりとなりました。
「あ、いました! あそこです!」
「いたぞー! 確保だー!」
食堂のおばちゃんたちが衛兵を伴って駆けてくるのを見てブラウンは肩を跳ね上げます。
(く、くそっ! もう逃げるしかない!)
ブラウンは逃げ出しましたが、それは悪手でした。こっそりと姿を隠せば逃げおおせることもできたのでしょうが、狼狽えたばかりに気が回りませんでした。
その結果、目敏く気づいたエイプリルが素早く背後からのしかかり、ブラウンはあっという間に押し潰されました。声すら上げれなかったのは、そのときに胸ポケットに隠し持っていた解毒剤の小瓶がゴリッと胸を抉ったからでした。痛みに悶絶して何も考えられません。頭が真っ白になっている間にも話は進みます。
「皆様、ご安心を! このエイプリル・ダイヤモンドが不審者を確保しましたわー!」
「ありがとうございますエイプリル様!」
「流石エイプリル様だ!」
「オホホホホ、褒めても何も出ませんわよ! さて、ひっくり返してお顔を拝見。あら、これは?」
エイプリルがブラウンを乱暴にひっくり返した瞬間、解毒剤入の小瓶が転がりました。エイプリルはそれを拾い上げ、中に入った青い液体を太陽に透かします。
それを見た食堂のおばちゃんの一人が声を上げます。
「エイプリル様! それをアルベルト様方に! 解毒剤です!」
「あらまぁ、そういうことでしたのね」
エイプリルはアルベルトたちを介法する食堂のおばちゃんたち、毒を盛られた三人、倒れるブラウン、ブラウンの持つ小瓶というヒントから事情を察しました。
「ブラウン殿下、これはもう、恥の上塗りでは済みませんことよ?」
憐れみの目を向けつつエイプリルは言いました。いずれは自分の伴侶となるかもしれなかった同国の王子です。思うところがあるのも無理はありませんでした。
(脱糞くらい跳ねのける方であってほしかったですわ。アタクシは受け入れる覚悟がございましたのに……)
エイプリルは悲しげにそう心で呟いて、割れたアゴを震わせながらブラウンの体をまさぐりました。そして残り二つの小瓶も手に入れると、すぐにアルベルトたちに解毒剤を処方したのでした。
しかしながら、衆目の前で失禁脱糞をしたと話せば、王位継承権を放棄させられるおそれもあります。そうならなくとも、そんなことで権力を行使したと知れたらそれこそ物笑いの種でしょう。
ブラウンも愚かではありませんのでそれを分かっています。自業自得であるとも分かった上でそこから目を背けていました。
とにかく、何かに敵意を向けていなければ、自分を保つのが難しかったのです。結果を見ればむしろいろいろと含めてアルベルトに感謝せねばならない程なのですが、そこに思い至れる程ブラウンは人間ができていませんでした。
そもそも、王族であろうが一夫一婦制が基本の国内で女性三人に同時に恋心を抱いているという時点で人間ができていないので今更なのですが。
さて、そんなブラウンは相変わらずアルベルトをじっと見つめていました。同じ王族ですので、幼馴染です。アルベルトが大笑いしたのも弟のように思っていたからでした。ですがブラウンはアルベルトを兄のようには思っていません。昔から張り合って負け続けてきています。ブラウンにとってアルベルトは越えるべき壁でした。
(アルベルト、君は忘れているのかもしれないが、僕はやられたらやり返す男だよ)
ブラウンは何かで劣った場合、別の何かでアルベルトに復讐を果たし心のバランスを取ってきました。清算せねば気が済まないタイプなのです。ゆえに、既に仕込みは済んでいました。
あろうことか、ブラウンは権力を笠に着て食堂のおばちゃんを脅迫し、アルベルトたちの昼食に毒を盛っていたのです。その反応が出るのを、ブラウンはじっと待っていました。
ぎゅるるるる、という音が響きました。直後、アルベルトとメイ、ジュリーがお腹を押さえ、情けない声を上げながら顔を顰めて青くします。
「あら? 皆さま、どうなさったの?」
エイプリルだけは平然とそう訊ねます。
「は、腹が……」
「エ、エイプリル様、申し訳ありませんが、お手洗いまで、運んでいただけません?」
「痛くて、う、動けん」
全員、同じ物を食べているのですが、エイプリルには毒が効いた様子がありません。
(な、なぜ効かない⁉)
ブラウンは戸惑いに震えました。苦しむ女子たちの前に颯爽と現れて、胃薬と称して解毒剤を渡して感謝され、数に限りがあると偽りアルベルトに失禁脱糞させるという一石二鳥の復讐計画だったのですが、思惑が外れました。
「ふむ……これは毒ですわね。アタクシは普段から毒を摂取して内臓を鍛えておりますからよく味合わなければ気づきませんでしたわ」
エイプリルの種明かしにブラウンは驚愕し、思わず目を剥き立ち上がります。それが悲劇の始まりとなりました。
「あ、いました! あそこです!」
「いたぞー! 確保だー!」
食堂のおばちゃんたちが衛兵を伴って駆けてくるのを見てブラウンは肩を跳ね上げます。
(く、くそっ! もう逃げるしかない!)
ブラウンは逃げ出しましたが、それは悪手でした。こっそりと姿を隠せば逃げおおせることもできたのでしょうが、狼狽えたばかりに気が回りませんでした。
その結果、目敏く気づいたエイプリルが素早く背後からのしかかり、ブラウンはあっという間に押し潰されました。声すら上げれなかったのは、そのときに胸ポケットに隠し持っていた解毒剤の小瓶がゴリッと胸を抉ったからでした。痛みに悶絶して何も考えられません。頭が真っ白になっている間にも話は進みます。
「皆様、ご安心を! このエイプリル・ダイヤモンドが不審者を確保しましたわー!」
「ありがとうございますエイプリル様!」
「流石エイプリル様だ!」
「オホホホホ、褒めても何も出ませんわよ! さて、ひっくり返してお顔を拝見。あら、これは?」
エイプリルがブラウンを乱暴にひっくり返した瞬間、解毒剤入の小瓶が転がりました。エイプリルはそれを拾い上げ、中に入った青い液体を太陽に透かします。
それを見た食堂のおばちゃんの一人が声を上げます。
「エイプリル様! それをアルベルト様方に! 解毒剤です!」
「あらまぁ、そういうことでしたのね」
エイプリルはアルベルトたちを介法する食堂のおばちゃんたち、毒を盛られた三人、倒れるブラウン、ブラウンの持つ小瓶というヒントから事情を察しました。
「ブラウン殿下、これはもう、恥の上塗りでは済みませんことよ?」
憐れみの目を向けつつエイプリルは言いました。いずれは自分の伴侶となるかもしれなかった同国の王子です。思うところがあるのも無理はありませんでした。
(脱糞くらい跳ねのける方であってほしかったですわ。アタクシは受け入れる覚悟がございましたのに……)
エイプリルは悲しげにそう心で呟いて、割れたアゴを震わせながらブラウンの体をまさぐりました。そして残り二つの小瓶も手に入れると、すぐにアルベルトたちに解毒剤を処方したのでした。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
8
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる