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ルルモア大学進学~二年生編

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「いぎゃっ⁉」

 ジュリーのハイヒールは特注品です。ピンヒールが鋼鉄ですので、その他の部分は軽量な素材が使われています。底の重みに耐えるだけの耐久性はあるのですが、衝撃を緩和する性能はありませんでした。或いは、ただのアルミ製のバケツであれば、ジュリーもそんな声を上げずに済んだのでしょうが、そこにはたっぷりと水が入っています。その痛みたるや、足に5キロ程のダンベルを落としたようなものでした。

 ばしゃあ──と水が床に流れます。

「きゃあっ⁉」

「うわっ⁉ なんだよ⁉」

 ジュリーがあまりの痛みに悶絶して蹲っているところに、アルベルトとメイが現れました。バケツから溢れた水に驚き、メイはアルベルトに抱きつきます。アルベルトはそれを当たり前のように抱き止めて庇いつつ、やはり床の水に驚いていました。

「なんでバケツが? メイ、掛からなかったか?」

「は、はい、殿下……」

 メイはアルベルトを見つめて頬を染めます。

(初めて……名前で……)

 アルベルトは無意識にやったことでしたが、咄嗟に庇われた上に、名前で呼ばれて心配までされたメイは天にも昇る心地でした。
 その後ろから、ひょっこりエイプリルが顔を覗かせます。

「これは……ルルモア魔法大学に伝わる伝説の掃除人の仕業かもしれませんわね」

「どうせ嘘だろ」

「オホホホホ。流石ですわ殿下。もうアタクシのことはお見通しなのですわね。そんなに想っていただけてアタクシ幸せです。あとメイ様、前の休憩時間から、どさくさ紛れに殿下とくっつき過ぎですわよ。フェアじゃありませんわ」

「ど、どさくさ紛れではありませんわ!」

 メイは慌ててアルベルトから離れ、少々気まずげに言葉を続けます。

「で、ですが、エイプリル様のおっしゃることも、もっともなところはあります。いくら驚いたからといって、殿下に縋るなど、淑女の振る舞いとは言えませんものね」

「あら、素直ですわね。槍の雨でも降るのかしら」

「槍の雨って……そんなに不思議か? 大事な婚約者なんだから守るのは当然だろ。ほら、とっとと行こうぜ。席が埋まっちまうよ。今日は何食うかな」

 アルベルトがそう言って歩き出すのをメイとエイプリルはぽかんと見つめます。直後、メイはあまりの嬉しさに鼻血を噴き出し卒倒しました。
 エイプリルがビクリと肩を跳ね上げつつも、素早く受け止めます。

「メイ様⁉ これはいけませんわ! 皆さま、急患です! 道をお開けになってくださいまし! はい、ごめんなすって、ごめんなすってー!」

 ドレスが汚れるのも厭わず、エイプリルはメイを抱き上げてドタバタと廊下を走ります。生徒たちはエイプリルの声掛けに応じ、廊下の両側に移動していたので、誰もエイプリルに轢かれることはありませんでした。事故にならなくて何よりです。

 そんな中、ジュリーはまたグスグスと泣いていました。
 
 
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