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ルルモア大学進学~二年生編
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隣国フローレス王国に渡ったアルベルトは、ルルモア魔法学園での入学試験を済ませ、事前に情報を掴んでいた数社の新聞社から取材を受けていました。
他国の王子が入学するという話題は特ダネになるということで、記者はこぞってアルベルトを追い掛け、アルベルトもまた、ちやほやされて悪い気はしなかったので、よほど失礼な質問をされない限りは、好意的に接していました。
「すまないが、この記事が載る日を教えてくれないか?」
「明日には載ります」
「そうか。ありがとう」
カラット王国では、メイの方が扱いは上でした。それに取って代わってギャフンと言わせてやろうと奮闘していた日々が嘘のようです。
今は自分が注目の的。アルベルトはそれを喜んでいました。ただ、流されはしませんでした。これは飽くまで気晴らしに過ぎないと自分を律していました。
(いつか必ず、アイツのいるところで……!)
アルベルトは決意を新たに、引越し先の寮の部屋で一夜を明かしました。
事件が起きたのは、翌朝のことでした。目が覚めるなりに手早く身支度を整えたアルベルトは、意気揚々と新聞を買いに売店へと向かいました。
新聞は内容が分からないように筒状に巻いてあります。取材に訪れていた数社分を購入して部屋に戻ったアルベルトは、優雅なひとときを味わう為に、普段なら使用人が用意してくれるコーヒーを自分で用意しました。
その香りを楽しみながらテーブル席に着き、一口すすって新聞を広げたのですが、その直後には目を剥いてコーヒーを噴き出していました。
「なんでだっ⁉」
新聞の一面を飾っていたのはメイでした。
記事を楽しみにしていたアルベルトは『カラット王国エメラルド公爵家の才女、ルルモア魔法大学、前代未聞の飛び級お受験! 驚天動地の首席合格!』の文字と、いつもと変わらぬ翡翠色のドレスを着た笑顔のメイを見て戦慄きました。
一年早く入学したにも拘わらず首席合格を果たしたという話は、新聞社の特ダネとして採用され、本来一面を飾るはずだったカラット王国第三王子アルベルト入学の記事と差し替えられていたのです。
「あ、あり得ねぇだろ……あいつが、追ってきたってのかよ……」
アルベルトがそう呟くのも無理はありません。本来であればルルモア魔法大学には、十八歳からしか入学できないのですから。
実は、メイはある方の計らいで特例で飛び級試験を受けることを許されていたのです。そのある方というのは、言わずもがなガゼルでした。
ガゼルはアルベルトに留学届を渡した日、エメラルド公爵邸を訪問してメイにも留学届を渡していたのです。メイは現在通っているカラット高等学園の単位はすべて取得していましたので、わざわざ一年を無駄にする必要もないだろうと、ガゼルが気を利かせたという訳です。
「何故これを私に?」
「私は王の器ではないからね。研究畑にいたいのさ。クラウスはどうしようもない奴だったが、王たるカリスマは備えていた。それを追い出した責任は君にもあるからね」
「あら、それは間違っていませんこと?」
メイがピシャリと言うと、ガゼルは降参とばかりに両手を挙げて苦笑します。
「いや、言い方が悪かったね。私が言いたいのは、アルベルトは馬鹿ではないが、実直過ぎるということなんだ。君があの愚弟の支えになってくれると心強いのさ」
「ガゼル殿下……」
これが、あの日にエメラルド公爵邸の応接間で行われた遣り取りの一部です。二人はその後、しばしの歓談を行って和やかに計画を話し合いました。
ガゼルの目論見は、アルベルトを王に据えて、一生を魔法研究に捧げることでした。ありがたいことに、優秀なメイがアルベルトを好いていることも知っています。利用しない手はありません。ということで、ガゼルはメイを徹底的に応援する気でいました。つまり、アルベルトに言った婚約者探しについては方便に過ぎなかったということです。
「ですが、大学入学は飛び級制度が取られていないはずです。それに、これまで特例は認められていないというお話ですけれど?」
「なぁに、心配はいらないよ。伝手と権力を大いに活用させてもらうさ。あそこの理事長は、私の恋人の父だからね。どうとでもなるんだよ。もっとも、君が優秀だからできることなんだけどね」
ガゼルはその職務上、ルルモア魔法大学理事長ネオロマ・ガーネットとも懇意にしていました。その娘であるメリルとは互いに惹かれ合うところがあり、既に婚約の話が進んでいたのです。そういったこともあり、特例中の特例、前代未聞の飛び級試験も叶ったという訳でした。
それを知らないアルベルトは、次から次へと新聞を開いてはメイの笑顔を見る羽目になり、最後に開いた新聞で、隅っこに追いやられている小さな自分の記事を目にして、膝から崩れ落ちるのでした。
他国の王子が入学するという話題は特ダネになるということで、記者はこぞってアルベルトを追い掛け、アルベルトもまた、ちやほやされて悪い気はしなかったので、よほど失礼な質問をされない限りは、好意的に接していました。
「すまないが、この記事が載る日を教えてくれないか?」
「明日には載ります」
「そうか。ありがとう」
カラット王国では、メイの方が扱いは上でした。それに取って代わってギャフンと言わせてやろうと奮闘していた日々が嘘のようです。
今は自分が注目の的。アルベルトはそれを喜んでいました。ただ、流されはしませんでした。これは飽くまで気晴らしに過ぎないと自分を律していました。
(いつか必ず、アイツのいるところで……!)
アルベルトは決意を新たに、引越し先の寮の部屋で一夜を明かしました。
事件が起きたのは、翌朝のことでした。目が覚めるなりに手早く身支度を整えたアルベルトは、意気揚々と新聞を買いに売店へと向かいました。
新聞は内容が分からないように筒状に巻いてあります。取材に訪れていた数社分を購入して部屋に戻ったアルベルトは、優雅なひとときを味わう為に、普段なら使用人が用意してくれるコーヒーを自分で用意しました。
その香りを楽しみながらテーブル席に着き、一口すすって新聞を広げたのですが、その直後には目を剥いてコーヒーを噴き出していました。
「なんでだっ⁉」
新聞の一面を飾っていたのはメイでした。
記事を楽しみにしていたアルベルトは『カラット王国エメラルド公爵家の才女、ルルモア魔法大学、前代未聞の飛び級お受験! 驚天動地の首席合格!』の文字と、いつもと変わらぬ翡翠色のドレスを着た笑顔のメイを見て戦慄きました。
一年早く入学したにも拘わらず首席合格を果たしたという話は、新聞社の特ダネとして採用され、本来一面を飾るはずだったカラット王国第三王子アルベルト入学の記事と差し替えられていたのです。
「あ、あり得ねぇだろ……あいつが、追ってきたってのかよ……」
アルベルトがそう呟くのも無理はありません。本来であればルルモア魔法大学には、十八歳からしか入学できないのですから。
実は、メイはある方の計らいで特例で飛び級試験を受けることを許されていたのです。そのある方というのは、言わずもがなガゼルでした。
ガゼルはアルベルトに留学届を渡した日、エメラルド公爵邸を訪問してメイにも留学届を渡していたのです。メイは現在通っているカラット高等学園の単位はすべて取得していましたので、わざわざ一年を無駄にする必要もないだろうと、ガゼルが気を利かせたという訳です。
「何故これを私に?」
「私は王の器ではないからね。研究畑にいたいのさ。クラウスはどうしようもない奴だったが、王たるカリスマは備えていた。それを追い出した責任は君にもあるからね」
「あら、それは間違っていませんこと?」
メイがピシャリと言うと、ガゼルは降参とばかりに両手を挙げて苦笑します。
「いや、言い方が悪かったね。私が言いたいのは、アルベルトは馬鹿ではないが、実直過ぎるということなんだ。君があの愚弟の支えになってくれると心強いのさ」
「ガゼル殿下……」
これが、あの日にエメラルド公爵邸の応接間で行われた遣り取りの一部です。二人はその後、しばしの歓談を行って和やかに計画を話し合いました。
ガゼルの目論見は、アルベルトを王に据えて、一生を魔法研究に捧げることでした。ありがたいことに、優秀なメイがアルベルトを好いていることも知っています。利用しない手はありません。ということで、ガゼルはメイを徹底的に応援する気でいました。つまり、アルベルトに言った婚約者探しについては方便に過ぎなかったということです。
「ですが、大学入学は飛び級制度が取られていないはずです。それに、これまで特例は認められていないというお話ですけれど?」
「なぁに、心配はいらないよ。伝手と権力を大いに活用させてもらうさ。あそこの理事長は、私の恋人の父だからね。どうとでもなるんだよ。もっとも、君が優秀だからできることなんだけどね」
ガゼルはその職務上、ルルモア魔法大学理事長ネオロマ・ガーネットとも懇意にしていました。その娘であるメリルとは互いに惹かれ合うところがあり、既に婚約の話が進んでいたのです。そういったこともあり、特例中の特例、前代未聞の飛び級試験も叶ったという訳でした。
それを知らないアルベルトは、次から次へと新聞を開いてはメイの笑顔を見る羽目になり、最後に開いた新聞で、隅っこに追いやられている小さな自分の記事を目にして、膝から崩れ落ちるのでした。
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