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カラット王国編
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しおりを挟むそれからさほど日をまたがずに、メイはクラウスからの茶会に招かれました。王族からの招きなので断ることは叶いません。本当は来たくありませんでした。と言いますのも、どれほど嫌でも、結局はなんだかんだと話をまとめられ、許嫁の宣言をされてしまうと予期していたからです。
茶会の席にはアルベルトの姿もありました。彼の前でそんな宣言などされてはたまったものではありません。メイは人生で最大のピンチを迎えていました。どうして話したこともないクラウスとの許嫁という話が出たのか不思議でなりませんでした。
実は、クラウスはずっとメイのことを見ていました。あの桜咲く茶会の席で、木陰に隠れてアルベルトとメイの遣り取りをこっそりと見ていたのです。当時、クラウスは七歳。アルベルトと違い、言いたいことを言えないタイプで、常日頃から好き放題しているアルベルトを目の敵にしていました。
(どうしてアルベルトは好き放題やっても許さるのに、僕は叱られるんだよ! 不公平じゃないか! 僕だって解放感が欲しいのに! アルベルトばっかり贔屓して!)
クラウスは常々そのような思いを抱いていました。ですが、臆病で卑屈なので、二つも歳下のアルベルトにすらものを上手く言えません。いざ面と向かうと、それだけで萎縮してしまうのです。
それは、体格にも原因がありました。クラウスは小柄で、まるで女の子のようでした。対して、アルベルトは絵に描いたようなやんちゃ坊主で、当時からクラウスよりも逞しく体も大きかったのです。
あの茶会のときも、本当はアルベルトに注意すべきなのはクラウスでした。クラウス自身もそう思っていましたし、周囲にいる貴族たちも、クラウスがすべきであるという視線を向けていました。
何より、父王もまたそれを期待していたのです。ゆえに、あのとき敢えてアルベルトを放置していたのでした。
クラウスもそれには気づいていました。それで動き出すタイミングを計っていたのです。ところが心を決めあぐねているうちに先にメイが動いてしまったという訳です。
慌てて近づいたのですが、結局は桜の木陰で、もじもじしながらアルベルトとメイの様子を窺うことしかできませんでした。
アルベルトだけならまだ注意に行ける可能性はあったのですが、メイがいた為に人見知りが発揮され、どうしても一歩が踏み出せなかったのです。
そういった性格ですから、メイの堂々とした態度に心惹かれるのも無理はありませんでした。アルベルトが無様に退散するのを見た頃には、クラウスは恋の矢で胸を貫かれていました。
勿論、メイはそんなものを放った覚えはありません。クラウスが自ら、恋のキューピッドの射損じた矢に当たりにいったようなものでした。
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