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カラット王国編
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十三年の歳月が流れました。
あれからアルベルトは努力を重ねました。本来のプランであれば、誰に何を言われようが思うがままに毎日を過ごすはずだったのですが、それはできませんでした。
そのように振る舞おうとしても、メイに対するトラウマと復讐心が蘇ってきて身悶えそうになり、居ても立っても居られなくなったからです。
(見てろよ! いつか絶対ギャフンと言わせてやるからな!)
メイにとっての幸運は、相手がアルベルトであったことでした。もしこれが第一王子クラウスであったならば、メイは卑怯極まりない陰湿な手で散々な嫌がらせを受けていたことでしょう。いえ、それはアルベルトとメイに対して既に行われているのですが、また別のお話ですので今は置きましょう。
とにかく、アルベルトは卑怯なことを考える頭がありませんでした。というより、それをすることが許せない実直な男だと言った方が正しいでしょう。
(男なら、正々堂々ギャフンと言わせる!)
そんな思いから、アルベルトは自己研鑽に勤しみました。そしてカラット王立高等学園を卒業する十八歳となった今では王族として恥ずかしくない教養と魔力を身につけていました。学園で十指に入る頭脳、身体能力、魔力は父王からも褒め称えられました。
「まさか、お前を後継の選択肢に加える日がこようとはのう」
それは父王から賜る最大の賛辞でした。
ですがアルベルトは満足できませんでした。相手は強大だったのです。
カラット王国では、洗練された美が望まれています。ゆえに、メイは幼少の頃より大変な努力を重ねに重ね、国内最高と謳われる美の象徴にまで上り詰めていました。
エメラルド公爵家がカラット王国にもたらした至宝。世間でメイはそのように讃えられていました。
翡翠色のドレスと艶のある長い黒髪。透き通るような白い肌。誰が見ても賛美するその美貌は国王をも虜にするほどのものになっていました。
その上メイは勉学も怠らなかったのです。誰が勧めた訳でもないのですが、教養を培うことは内面の美と信じて疑いませんでした。
アルベルトは在学中にメイを笑ってやる日を夢見ていました。身なりばかり整えて頭が空っぽだと笑い者にしてやるつもりでしたが、それは果たされませんでした。どれだけ頑張っても、下級生のメイが自分の先を行ってしまうのです。
憐れなアルベルトが取れる手段は、自尊心を守るために、なるだけメイと関わらないようにすることだけでした。
アルベルトがメイに素っ気ない態度をとる姿は傍目には冷たく映っていましたが、実際はただ逃げていただけったということです。
そういう日々を送っているのですから、アルベルトは鬱憤が溜まるばかりでした。どうして追いつけないのか。いつになったらギャフンと言わせられるのか。その鬱憤は、やがて焦燥へと形を変えてアルベルトを襲うことになったのです。
事件は卒業式後、桜並木の校庭で起こりました。
「アルベルト殿下」
アルベルトが校舎から出ると、校門まで続く石畳の脇に並ぶ在校生の中から、祝いの言葉を述べようと一歩踏み出したメイに声を掛けられました。
アルベルトは普段と同じくそれを無視して通り過ぎようとしました。ですが、そこでふと嫌な予感に襲われます。
これまでは敵情視察とばかりにメイの様子をこっそり確認することができていましたがこれからは違います。自分の見ていないところで、どんな化け物に成長するかわかったものではありません。
焦燥感による妄想は留まることを知りませんでした。
(こ、このままじゃ今以上にギャフンと言わせられなくなる。こいつは絶対に追いつけないところに行く気がする。何か、何かこいつの成長を妨げる方法はないのか……⁉)
どうにか平静を装ってメイの前を通り過ぎることはできましたが、追い詰められたアルベルトは、気づけばメイの手首を掴んで引き寄せ腕の中に抱えていました。
「顔が疲れてる。頑張りすぎだ。少しは休んだらどうだ?」
内心、頼むからもう勘弁してくれという思いでした。どうすればメイの成長を妨げることができるかを必死に考えた末に捻り出した台詞でした。違和感なく、呆れたように冷たく言い放てるのは、思いつく限りそれだけだったのです。
ですがこれは悪手でした。アルベルトは剛毅木訥で硬派な為に、いまいち女心がわかりません。それゆえに、恋にも無頓着です。
これが災いして、最も効果的なシチュエーションとタイミングで、メイに胸キュン大爆発な勘違いをさせてしまったのです。
普通の精神状態なら分かることですが、アルベルトはもういっぱいいっぱいで、自分の掛けた言葉が、純粋に心配しているように受け取られてしまうということにさえ気づけていませんでした。
あれからアルベルトは努力を重ねました。本来のプランであれば、誰に何を言われようが思うがままに毎日を過ごすはずだったのですが、それはできませんでした。
そのように振る舞おうとしても、メイに対するトラウマと復讐心が蘇ってきて身悶えそうになり、居ても立っても居られなくなったからです。
(見てろよ! いつか絶対ギャフンと言わせてやるからな!)
メイにとっての幸運は、相手がアルベルトであったことでした。もしこれが第一王子クラウスであったならば、メイは卑怯極まりない陰湿な手で散々な嫌がらせを受けていたことでしょう。いえ、それはアルベルトとメイに対して既に行われているのですが、また別のお話ですので今は置きましょう。
とにかく、アルベルトは卑怯なことを考える頭がありませんでした。というより、それをすることが許せない実直な男だと言った方が正しいでしょう。
(男なら、正々堂々ギャフンと言わせる!)
そんな思いから、アルベルトは自己研鑽に勤しみました。そしてカラット王立高等学園を卒業する十八歳となった今では王族として恥ずかしくない教養と魔力を身につけていました。学園で十指に入る頭脳、身体能力、魔力は父王からも褒め称えられました。
「まさか、お前を後継の選択肢に加える日がこようとはのう」
それは父王から賜る最大の賛辞でした。
ですがアルベルトは満足できませんでした。相手は強大だったのです。
カラット王国では、洗練された美が望まれています。ゆえに、メイは幼少の頃より大変な努力を重ねに重ね、国内最高と謳われる美の象徴にまで上り詰めていました。
エメラルド公爵家がカラット王国にもたらした至宝。世間でメイはそのように讃えられていました。
翡翠色のドレスと艶のある長い黒髪。透き通るような白い肌。誰が見ても賛美するその美貌は国王をも虜にするほどのものになっていました。
その上メイは勉学も怠らなかったのです。誰が勧めた訳でもないのですが、教養を培うことは内面の美と信じて疑いませんでした。
アルベルトは在学中にメイを笑ってやる日を夢見ていました。身なりばかり整えて頭が空っぽだと笑い者にしてやるつもりでしたが、それは果たされませんでした。どれだけ頑張っても、下級生のメイが自分の先を行ってしまうのです。
憐れなアルベルトが取れる手段は、自尊心を守るために、なるだけメイと関わらないようにすることだけでした。
アルベルトがメイに素っ気ない態度をとる姿は傍目には冷たく映っていましたが、実際はただ逃げていただけったということです。
そういう日々を送っているのですから、アルベルトは鬱憤が溜まるばかりでした。どうして追いつけないのか。いつになったらギャフンと言わせられるのか。その鬱憤は、やがて焦燥へと形を変えてアルベルトを襲うことになったのです。
事件は卒業式後、桜並木の校庭で起こりました。
「アルベルト殿下」
アルベルトが校舎から出ると、校門まで続く石畳の脇に並ぶ在校生の中から、祝いの言葉を述べようと一歩踏み出したメイに声を掛けられました。
アルベルトは普段と同じくそれを無視して通り過ぎようとしました。ですが、そこでふと嫌な予感に襲われます。
これまでは敵情視察とばかりにメイの様子をこっそり確認することができていましたがこれからは違います。自分の見ていないところで、どんな化け物に成長するかわかったものではありません。
焦燥感による妄想は留まることを知りませんでした。
(こ、このままじゃ今以上にギャフンと言わせられなくなる。こいつは絶対に追いつけないところに行く気がする。何か、何かこいつの成長を妨げる方法はないのか……⁉)
どうにか平静を装ってメイの前を通り過ぎることはできましたが、追い詰められたアルベルトは、気づけばメイの手首を掴んで引き寄せ腕の中に抱えていました。
「顔が疲れてる。頑張りすぎだ。少しは休んだらどうだ?」
内心、頼むからもう勘弁してくれという思いでした。どうすればメイの成長を妨げることができるかを必死に考えた末に捻り出した台詞でした。違和感なく、呆れたように冷たく言い放てるのは、思いつく限りそれだけだったのです。
ですがこれは悪手でした。アルベルトは剛毅木訥で硬派な為に、いまいち女心がわかりません。それゆえに、恋にも無頓着です。
これが災いして、最も効果的なシチュエーションとタイミングで、メイに胸キュン大爆発な勘違いをさせてしまったのです。
普通の精神状態なら分かることですが、アルベルトはもういっぱいいっぱいで、自分の掛けた言葉が、純粋に心配しているように受け取られてしまうということにさえ気づけていませんでした。
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