イスカソニア~異世界で十歳に転生した中年の俺が無能と呼ばれる子供と出会ってからの話~

月城 亜希人

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第二章 レッキス編

義父との二人旅(2)

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「【自動地図オートマップ】が狂うなんてことあるんですか?」

「いや、初めてだ。だから参ってる。『暗黒地帯ダークゾーン』という、光源も意味をなさなくなる場所では【自動地図】どころか何一つ見えなくなって迷うことはあるんだが、今回はそうではないからな。どうしたものか」

「暑いですし、下手に動き回るのも良くないですよね……」

 俺とノルトエフはGS社製の黒い装備品に身を包んでいる。
 革製のグローブとブーツ、体に密着する戦闘服バトルウェア。そして森林迷彩の施された軽鎧装甲レウィスアルマというプロテクターのような装備品。
 俺は汎用型のG弐型で、ノルトエフは魔力増強型のM弐型。

 GS社の本社で、社長のラスコールとその娘のスカーレット、あと転移者の吾妻信アガツマシンと顔合わせついでに揃えてもらった。武器のトンファーも。代金は出世払いだ。

 シンについてはソニアから聞いて知っていた。
 一度目の人生のパーティーメンバーだったとか。

 シンの方も俺のことを知っていた。アメリアからソウルカードのメッセージ機能で伝えられていたらしい。ただソニアが転生者だとは気づいていないようだった。

 ソニアは伝える気がないのだという。
 自分だけが思い出を持ってるなんて難儀な話だよな。

 複雑な気分になったが──それは今どうでもいい。

 とにかくワサワサ大森林は熱帯気候なので、これだけ着こんでいればかなり暑い。
 ノルトエフも温度調節の魔術式を刻んでこれば良かったと嘆いている。

 かといって、脱ぐわけにもいかない。

 俺もどうして気温について考えなかったのかと悔いている。
 事前の準備を怠るとこういう目に遭うとわかっていたのに。

 したたる汗を手で拭いながら、どうしたものかと思案しているとワサワサと草が揺れた。俺たちは音の聞こえた方に向き直って身構える。

 森に足を踏み入れてから様々な鳴き声が聞こえていた。
 今のところ、蝶や蟻などの小さな虫や、トカゲやカメレオンに似た手の平サイズの臆病な生物しか目にしていないが、攻撃的な魔物と遭遇することも大いに有り得る。

 時折、視線を感じたり【孤高の野人ソリタリーワイルド】の気配察知で敵意を感じる強い気配を捉えていた。ただかなり気配を隠すのが上手いようで、数秒しか捉えられなかった。

 もしかすると、そいつかもしれない。

 そう思うが、気配から敵意は感じられない。

 別ものか?

 いや、油断は禁物だ。偽装している可能性もある。

 いよいよかと俺は体を強張らせる。が、草むらをかきわけて出てきたのは、長い白髪に覆われた頭から兎耳うさみみを生やした肌の浅黒い少女だった。

「ぴゃ!」

 少女は俺たちを目にした瞬間、そんな声を上げ、驚いた顔で兎耳と体をピーンと伸ばした。俺よりかなり小さい。四五歳くらいに見える。

 ほとんど人と同じだが、鼻と口がやや兎寄り。着ているのは月の模様の入った薄手の民族衣装で、話に聞いていたレッキス族の特徴と一致していた。

 俺とノルトエフは敵意がないことを示す為に構えを解いて両手を軽く上げた。

「やぁ、驚かせてすまないね。君は、レッキス族の子で合ってるかい?」

 ノルトエフが微笑み、優しい声で訊ねる。すると少女は、はっとした様子で警戒心を露にし、腰に帯びていた短刀の鞘に手を当てた。

「待ってくれ。こちらに敵対の意思はないんだ。君たちから『パカの根』を買いに来たんだよ。交換できる食べ物もいっぱい持ってきてる。ほら」

 ノルトエフがストレージから人参やキャベツを取り出して見せる。俺もストレージから林檎とビスケットの入った袋を取り出して前に出す。

 少女は林檎に軽く顔を寄せ、ヒクヒクと鼻を動かした後で、腰に下げた小さな袋からいそいそと茶色い植物の根らしきものを取り出し、俺たちに差し出した。

「コレ、カジル」
「これは?」
「パカ、ネッコ。オマエラ、ゲンカク。コレ、カジル、ナオル」
「ゲンカク? ああ、そういうことだったか……!」

 ノルトエフが合点がいったという様子で数回細かく頷き、少女からパカの根を受け取って口に放り込む。そして俺にも一つ手渡した。

「イスカ、これを噛め。『幻覚』を解除してくれる」
「え? もしかして状態異常にかかってたってことですか?」
「どうやらそうらしい。かじってみろ。驚くぞ」

 受け取ったパカの根は細いゴボウのような見た目をしていた。嗅ぐとシナモンのような香りがしたので、特に抵抗なく口に入れることができた。

 かじると僅かな渋みと苦みが口に広がり、芳醇な香りが鼻を抜ける。

 まるでブラックコーヒーのような味わいに驚いているうちに、視界から徐々に木々が消えていき少し先で森が開けているのが見えた。

 更に先にはノルトエフの車。
 悪路走行の二人旅なのでオフロード型の魔機銃付き四輪駆動装甲車。普段使用している十輪装甲カーゴはGS社の地下駐車場に預けてある。

「うわぁ、すぐそこが出口だったんですね」
「ああ、狂っていたのは【自動地図】じゃなくて俺たちの方だったんだ」

 ノルトエフが眉根を寄せて言った後で、少女に顔を向ける。

「ありがとう。助かったよ。よかったら集落に案内してもらえないかな?」
「イイゾ。ツイテコイ。オイ、オマエ、ソレクレ」

 少女が林檎を指差したので渡すと、嬉しそうに一口かじってから「ウマイナ。コレ、ウマイナ。ウヒヒ」と嬉しそうに笑って軽快に歩き出した。

 俺とノルトエフは一度顔を見合わせてから苦笑して少女の後を追った。
 
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