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誘拐犯の独白劇~後編~
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しおりを挟むふふっ、はい、もう大丈夫ですね?
そうです。あなたは欺影虫に取り憑かれたんです。だから人形になっているんです。
やったのは私です。千鹿の指示で、欺影虫と繋がっていない部分を人形に移しました。ほぼ二分割ですね。振り返っても記憶にはないですよ? 何故なら、その辺りの記憶はあなたの向かいに座っているこの本体にあるからです。
しかし、相変わらず、よく眠っていますね。でも、考えてみれば打ったのは麻酔ですから、昏睡状態と言った方が正しいんですかね? ま、意識がなければ何でも良いんですけどね? あると五月蝿いですから。きっと。
ところで、どうして私と千鹿がこんなやり方をしているか疑問に思うでしょうね?
救うつもりなら、さっさと欺影虫の幼虫を駆除して、あなたを本体に戻してしまえば良いだけですからね。こんな長々としたつまらない説明なんて不要ですよね。
分かりますよ? あなたの感情に疑問の色が出ても仕方がないことだと思います。ですが考えてみてください? 私にも千鹿にも、あなたを救う理由がまったくないんですよ。何の関係もありませんし、何の得もありません。
警察から駆除依頼を受けていますので、その分の報酬は貰えます。ですが、あなたの命を救ったところで別途報酬が出る訳ではありません。彼らの見解で言えば、あなたは既に人ではなく虫や獣です。それも、人に害を及ぼす害虫害獣です。私たちは受けた依頼に従い、あなたを駆除すれば良いだけなんです。進んで無料働きをするほどの善性は持ち合わせていませんからね。
ですが、『飯の種になりそうな話には違いない』と、千鹿が言ったんです。
あなたは欺影虫に取り憑かれているので駆除しなくてはいけません。しかし、まだ取り憑かれているというだけで蜘蛛人にはなっていません。千鹿が言うには、今あなたを駆除すれば『殺人になる』そうです。それは彼のポリシーに反するとのことですよ。
父親似なんですよね。『賭けてみよう』と言い出したんです、千鹿が。
かつて、私がまだ良一郎であった頃、百鹿が少女たちから勝手に依頼を受けたように、千鹿はあなたから勝手に依頼を受けたことにしたんです。
依頼料が払われれば救う。払われなければ救わない。千鹿は他人の行動に自分の未来を委ねているんです。百鹿もそうでした。口では『慈善事業ではない』なんて冷たいことを言うんですが、本心は救いたくて仕方ないんでしょうね。
ただ、介入すれば確実に解決できる力があるので、こういうことをしなければ気が済まないんでしょう。遊んでいるのではなく、不安なんだと思います。
救った後に、救わなければ良かったと思うようなことが起きたとき、自分の責任ではないという言い訳が欲しいんでしょうね。
私に言わせれば、大掛かりなコイントスでしかありません。
裏か表か、ただそれだけですよ。
状況が飲み込めたようですね。感情がそういう色をしています。そうです、あなたのお父さんに要求した百万円というのは、欺影虫だけを駆除する依頼料だったという訳です。とはいえ、支払ってもらえなければ、あなたも一緒に駆除するので誘拐殺人事件と何も変わらなくなるんですけどね?
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