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誘拐犯の独白劇~後編~
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しおりを挟む彼此繋穴を通って此の世に渡ってきた欺影虫は、まず宿主となる動物の影に入り込み取り憑きます。というのも、彼の世から渡ってきた欺影虫は俗に言う霊体でしかなく、肉体を持っていないからですね。
もっとも、肉体を必要としない彼の世の生き物もいますが、欺影虫の場合は、そのままでは栄養摂取ができないので肉体を得ようとするということです。そうしなければ、飢餓消失してしまいますから。
ああ、また補足が必要ですね。
飢餓消失というのは、霊体の餓死だと思ってください。此の世の生き物と違って、彼の世で産まれたものは霊体に寿命と死が存在するんです。
あ、それと、私の言う彼の世とは、私たちが死後に入る世界のことではありませんので、勘違いしないでくださいね。飽くまで彼此繋穴によって往来可能な異界というだけですよ。とはいえ、こちらから渡ると、彼の世に着いたなりに瘴気で腐って肉体を失うという話ですけどね。
ふっ、どうでもいいですね。こんなこと。
さて、どこまで話しましたかね?
ま、いいです。考える時間が勿体無いので適当に進めましょう。
そうですね、次は欺影虫が取り憑く対象について話しましょうか。えぇ、欺影虫が取り憑くのは動物のみです。現在確認されているのは、熊、猪、人です。サイズに拘るようで、人の場合は身長が百六十センチを下回ると憑きませんし、また幼虫も産みません。肉体が小さすぎて入れないのかもしれませんし、乗っ取った後の生存率を考慮してのことなのかもしれませんが、それについては明らかになっていないので省きます。
影に入り込んだ欺影虫は、宿主の体にある形のないものを溶かして吸い、栄養にします。形のないものとは、魂や精神、意識、記憶などと呼ばれるものですね。その影響で、取り憑かれた宿主は物忘れなどの症状が表れます。
それが進むと奇行が目につくようになり、最後には食事と排便しか行わなくなります。熊と猪が宿主の場合は、専門家でもない限り変化に気づけませんが、人だと顕著に異変が見て取れますね。
形のないものをすべて吸い取られた宿主は死にます。そして後には空になった肉体だけが残ります。そこに欺影虫が入り込み、自らが動きやすい姿に変形させることで、蜘蛛人が誕生します。
ちなみに、熊と猪の場合は一切変化がありません。元々四足歩行ですし、変化させずとも動きやすいのかもしれませんね。蛇足ですね。人以外の話は省きます。
蜘蛛人は、宿主の魂などを食い尽くして肉体を得た欺影虫であるということが、これまでの話で分かってもらえたと思います。日記にあった、『元に戻せない』というのはそういうことです。だから、駆除するしかないんですね。
あら、どうしました? 腑に落ちないような感情の色をしていますね? その色から推察するに、たぶん日記にあった黄泉帰りの儀式について思い浮かべているんじゃありませんか?
確かに、あなたの想像する通りです。肉体がよほど酷く損傷していない限りは黄泉帰りの儀式は可能です。しかし、たとえそれを行ったとしても、黄泉帰らせることは叶いません。欺影虫に食われた魂は、本来還るべき場所である魂の奔流に入っていないからです。どこにいったのかも分かりません。或いは、消失したのかもしれませんが、それはどうでも良いですね?
とにかく、黄泉帰りの儀式を行っても戻すものがないということです。死体があっても、それがなくては黄泉帰らせることはできませんから。
どうです? どうしようもないということが分かってもらえましたか?
ふふっ、そうですか。では話を進めましょう。
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