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誘拐犯の独白劇~後編~
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しおりを挟むあら、帰ってきたようですね。おかえりなさい。
一時間程度でしたね。やはり、読むより体験する方が早いですね。
どうでしたか? まるで映画を観てきたようだったでしょう? ああ、そうですか。感情の色が随分と穏やかになっているところを見ると、大体のことは理解してもらえたようですね。
助かりますよ、すごく。
頭が固い人だと、こういうことをしても、なかなか納得してもらえなくて困るんです。でも、あなたの感情はそうは言っていない。とても順応性が高いようですね。濁りのない綺麗な色をしています。私の特殊能力について話したときに興味を示しただけのことはありますよ。
では、話を始めたいと思いますが、そうですね、何から話したものですかね? ま、考えても仕方のないことですね。時は金なり、タイム、イズ、マネーです。急がば回れとも言いますが、回るかどうかも分かりません。
あなたが理解できようができまいが、私には関係ありませんので、出たとこ勝負でいくことにします。重複するかもしれませんが、聞き覚えがあると感じた場合は気にせず流してくださいね。
では、始めます。
まず、日記を記した人物についてですが、これは言うまでもありませんね? かつての私、良一郎です。そして、もう一人。私の主人である鳴神百鹿です。私を此の世に呼び戻してくれた愛すべき伴侶ですね。名を久々に呼びました。懐かしく思います。
はい、実のところ、彼はもう此の世にはいません。先代から不還の役目を引き継ぐために、随分前に彼の世に入りました。まぁ、あなたには理解不能でしょうし、まったく関係のない話ですから死別したということにしておきましょう。
では、私の言う主人とは誰なのか? 気になりますよね? それは秘密です。なんて、野暮なことは言いません。別に隠し立てする気もありませんしね。
私の現在の主人は鳴神千鹿。私と百鹿の子です。
千鹿もまた成人した年に人魚の肉を食べ、不老不死となりました。私と同じ亜麻色の髪を持ち、百鹿にそっくりな美男子です。似合いの夫婦だと言われますよ。もちろん偽装ですけどね。
あ、おかしな勘違いはしないでくださいね? 主人というのは、主従関係であることを言っているだけで、親子でしかないですからね? 肉体関係など、以ての外です。私がエロスを感じているのは、今でも百鹿一人だけですよ。
とはいえ、百鹿を失ってからは、千鹿以外に愛する存在がないということも確かです。老化しませんので、恋愛感情に近い気持ちに襲われることもあります。百鹿と似ているから尚更ですね。
ですがやはり千鹿は子です。自分が産んで育てたという記憶がある以上、それが覆ることはありません。またそれ故に、伴侶として寄り添った百鹿よりも深く愛していると言えるでしょうね。
血の繋がりとは怖ろしいものですね。今は家族を愛したお爺さんの気持ちが良く分かります。ストルゲーと百鹿が日記に書いていましたね。黄泉帰ったときに、人格どころか性別や容姿までもが変わってしまいましたが、それでも私の中にはそのストルゲーなるものが受け継がれているのでしょう。
千鹿が死ねば私も死ぬ。そういう覚悟めいた思いがあるのもその所為なのでしょうね。ふふふ、何を言っているんでしょうね。
すいませんね。あまり他人と話すことがないので、ついつい話の腰を折ってしまうんです。きっと喋るのが楽しいんでしょうね。こんなに話したのは久し振りです。
女の子が相手だからですかね? 知りませんよね。
無駄話は止めて、そろそろ本題に入っていきましょうか。
ことの始まりは、御影山キャンプ場での殺人事件でした。女性の首を食いちぎり、膝を着かない四つん這いで逃げた男。それが犯人であるとの情報を耳にしたとき、私の頭に、ある少女の名前が浮かびました。そうです、好恵ちゃんです。この事件は、彼女に取り憑いていた欺影虫が繁殖したことを示していました。
といっても、あなたは欺影虫というものについて、まだよく分かっていませんよね? 日記に書かれている内容では不十分ですし、話を進めようにも、それを知っていなくてはそれこそ話になりませんから、まずはそこから掘り下げていくとしましょう。
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