上 下
55 / 82
日記

44

しおりを挟む
 
 
 鳴神は部屋に入ると、シャツとズボンを脱いで畳んだ。それから、洗濯桶に水を溜めて外に持ち出し、躊躇いなく肌着を脱ぐと、洗濯桶の水を含ませたタオルで体を拭いた。

 俺は窓からその後ろ姿を見ていたが、名匠の描いた絵画を見ているような錯覚を覚えた。

 濃緑の森林の側で、西へと傾いて間もない赤い太陽の光を浴びた裸体。その美しさに言葉を失っていると、絵画の主役が振り返って、

「良さん、悪いが着替えを取ってくれ。リュックの底に入ってる。肌着だけで良いよ」

 と微笑んで言った。俺は言われた通りにリュックの底から肌着を取り出し、窓を開けて渡した。そのとき鳴神が、

「ありがとう。良さんも一緒にどうだい」

 と言ったので、俺は、

「いや、俺はいいよ、それより前を隠せ」

 と返した。鳴神は平然と生まれたままの姿を披露するので、俺は淫らな気分にならないように、なるだけ見ないように努めた。

 一物があることを除けば、俺には鳴神が女にしか見えないようになっていたので、実に目のやり場に困った。

 少しは恥じらいを持って欲しいものだと、心の底から思っている。

 やがて、鳴神は肌着姿で部屋に戻ってきた。それから一緒に晩飯を食べたが、鳴神はやはり相当疲れていたようで、食べ終えるとすぐに横になり、あっという間に静かな寝息を立て始めた。

 俺も疲れていたので、鳴神から少し離れて横になり、眠りに就いた。

 そして、目覚めて、今に至っている。晩飯のときの会話で、また明らかになったことがあるので、これからその会話の内容のみを書いていく。

「そういえば百さん、さっき、俺が化け物に憑かれているか確認していると言ったが、百さんは、そういうことが分かるのか」

「ああ、分かるよ。前にも話したが、僕は拝み屋だから」

「この山で百さんが駆除しようとしているのは、その化け物に憑かれた人じゃないのか」

「良さん、鋭いね。そうだよ。化け物に憑かれた人は化け物になるからね。トラバサミの量を見たら分かるだろうけど、どんどん増えていくんだよ。これ以上、被害が増える前に一掃するつもりだよ」

「いくら化け物といっても元は人だよな。それを殺すのか」

「元が人だろうが、人に戻せない以上は獣と変わらない。そうするしかないんだよ。害虫害獣は駆除しないといけない。金を貰っている以上は、しっかり済ませないとね。あ、しまった。俺の仕事を話しちゃったら、もう良さんから子種を貰えんじゃないか」

 鳴神は大仰に落胆した素振りを見せた。俺は苦笑して誤魔化したが、内心穏やかではなかった。

 鳴神に付き合って少しだけ食っていた飯も喉を通すのに必死で、胃から上がるのを我慢するのに大変な思いをした。

 胸のむかつきはずっと治まらず、鳴神が寝た後、すべて外で戻した。そして、また薬に手を出しそうになった。寸でのところで踏みとどまったが、ずっと宙に浮いているような気分だった。

 これが、夢であれば良い。そう思って寝て、起きて、やはり夢ではなかったと覚り、こうして日記をつけている。

 寝るというのは大事なことだ。目覚めた時、体も心も落ち着いていた。受け入れる覚悟を作るために、睡眠というものは存在するのかもしれないと、今思った。

 もう一眠りする。起きたらまた書く。
 

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

三限目の国語

理科準備室
BL
昭和の4年生の男の子の「ぼく」は学校で授業中にうんこしたくなります。学校の授業中にこれまで入学以来これまで無事に家までガマンできたのですが、今回ばかりはまだ4限目の国語の授業で、給食もあるのでもう家までガマンできそうもなく、「ぼく」は授業をこっそり抜け出して初めての学校のトイレでうんこすることを決意します。でも初めての学校でのうんこは不安がいっぱい・・・それを一つ一つ乗り越えていてうんこするまでの姿を描いていきます。「けしごむ」さんからいただいたイラスト入り。

ゾンビ発生が台風並みの扱いで報道される中、ニートの俺は普通にゾンビ倒して普通に生活する

黄札
ホラー
朝、何気なくテレビを付けると流れる天気予報。お馴染みの花粉や紫外線情報も流してくれるのはありがたいことだが……ゾンビ発生注意報?……いやいや、それも普通よ。いつものこと。 だが、お気に入りのアニメを見ようとしたところ、母親から買い物に行ってくれという電話がかかってきた。 どうする俺? 今、ゾンビ発生してるんですけど? 注意報、発令されてるんですけど?? ニートである立場上、断れずしぶしぶ重い腰を上げ外へ出る事に── 家でアニメを見ていても、同人誌を売りに行っても、バイトへ出ても、ゾンビに襲われる主人公。 何で俺ばかりこんな目に……嘆きつつもだんだん耐性ができてくる。 しまいには、サバゲーフィールドにゾンビを放って遊んだり、ゾンビ災害ボランティアにまで参加する始末。 友人はゾンビをペットにし、効率よくゾンビを倒すためエアガンを改造する。 ゾンビのいることが日常となった世界で、当たり前のようにゾンビと戦う日常的ゾンビアクション。ノベルアッププラス、ツギクル、小説家になろうでも公開中。 表紙絵は姫嶋ヤシコさんからいただきました、 ©2020黄札

サハツキ ―死への案内人―

まっど↑きみはる
ホラー
 人生を諦めた男『松雪総多(マツユキ ソウタ)』はある日夢を見る。  死への案内人を名乗る女『サハツキ』は松雪と同じく死を望む者5人を殺す事を条件に、痛みも苦しみもなく松雪を死なせると約束をする。  苦悩と葛藤の末に松雪が出した答えは……。

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

廃墟の呪い

O.K
ホラー
主人公が電子書籍サイトで見つけた遺書には、禁じられた場所への警告が書かれていた。それを無視し、廃墟に近づいた主人公は不気味な声に誘われるが、その声の主は廃墟に住む男性だった。主人公は襲われるが、無事に逃げ出す。数日後、主人公は悪夢にうなされ、廃墟のことが頭から離れなくなる。廃墟がなくなった現在も、主人公はその場所を避けている。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

ゆるゾン

二コ・タケナカ
ホラー
ゆるっと時々ゾンビな女子高生達による日常ものです。 (騙されるなッ!この小説、とんだ猫かぶりだぞ!)

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...