【完結】彼此繋穴~ヒコンケイケツ。彼の世と此の世を繋ぐ穴~

月城 亜希人

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日記

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 また金の無心に来たと思われたのか、お袋が思いついたように家の奥に引っ込んで財布を取ってきた。金を出そうとしたので止めたら変な顔で笑った。イツ子さんも笑顔が固かった。二人とも緊張しているように見えた。

 それから二人と座卓を挟んで座り、世間話をしたが、妙によそよそしく感じられた。

「良一郎さん、今日は、お天気はどうですか。曇りですか。それじゃあ、お洗濯物は干せませんね。弱りましたね」

 とか、

「毎日暑くていやですね。ところで、ご予定はないのですか。町の方に新しい本屋が出来たそうですから、行ってみてはいかがです」とか言う。

 俺はその他人行儀な会話と愛想笑いに、しばらくの間、付き合っていたが、仕舞いには丁寧に卓上の漬物と茶を勧められたので笑ってしまった。

「客じゃないんですから」

 俺はそう言って立ち上がり、隣の居間に行こうとした。

 襖を開けると、暗い。どうも、外の光を入れていないようだと覚ったときに、低い唸り声と、ばたんばたん喧しい音が聞こえた。

 どこから聞こえているのか判然としないので、耳を澄ましてみようとしたが、そうする前に、二人に腕を引っ張られて、表座敷に戻された。

「犬でも飼ったのですか」

 と、笑いながら訊いたら、

「そんなもんはおらん」

 と急にお袋が怒鳴って、

「今日はお客さんが来るから、あんたの相手はしとれん」

 と、そのまま家を追い出された。まだ靴も履いていないのに、と思っていたら、一度閉まった玄関の戸が開いて、お袋に靴を放られた。ごみのような扱いだった。

 俺はあっちこっちに転がった靴を履いて、訳も分からん気分のまま母屋の門を抜けた。

 そこで、ふと本屋の話を思い出した。

 行ってみるかと、町の方に向かって歩くと、ちょっと進んだところで、向かいから小汚いお遍路みたいな男と女が、話しながらやって来るのが見えた。

 まともなお遍路さんなら、恵んでやったかもしれないが、どう見てもいかがわしい。人相が悪く、人の善意を食い物にする乞食遍路にしか見えなかった。

 こういう手合いは、下手に近づくと難癖をつけて金をせびってきたりする。相手をするのが面倒なので、俺は手前の四つ辻を曲がって、ヤミ市の方に進路を変えた。

 遠雷が響いた。雲は一層、厚くなり色の濃さを増していた。

 雨に降られては堪らない。早く離れ屋に帰らなくては。

 そう思った俺は、近道できるかもしれないと、よく知りもしないバラック小屋の隙間に出来た細い道を抜けることにした。
 
 
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