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日記
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しおりを挟む俺を殴った、あの頭のハゲた悪人面は、どうなったろうか。
イカサマがばれたとき、俺はそのハゲに、後ろ頭を張られて、顔を一発殴られた。
それで、慌てて雀荘から逃げ出して、財布がないことに気づいて、ほとぼりが冷めるまで、電柱やら、数軒先の店の看板なんかに隠れて様子を窺った。
そしたら、ハゲが友人に首根っこ掴まれて雀荘から出てきた。店の裏へ回る、細い路地に連れて行かれたんで覗いたら、そのときはもう、ハゲが命乞いしているような状況で、財布を二つ、友人に渡しているところだった。一つは、俺の財布だ。
友人は、ハゲから財布を取り上げると、何かを言った。聞こえなかったが、二人は話しているようだった。
ハゲが喚くように喋り終えると、友人は、財布の中身を勘定してズボンのポケットに入れた。それから、背広の胸ポケットからハンカチを取り出すと、素早くハゲの口に押し込んで、空いている手でハゲを殴った。
ハゲが鼻血を噴き出して、顔を庇うように手で覆っても、お構いなしに、その上から殴った。ハゲがぐったりするまで、どこもかしこも、しこたま殴って、蹴った。
俺は固唾を飲んで見ていた。怖ろしくて、とてもじゃないが止めに入れなかった。
やがて、ハゲが血反吐を吐いて倒れた。痙攣していたので、死んでしまうんじゃないかと戸惑っていたら、友人が腰に手を遣った。まさかと思ったが、嫌な予感は当たった。背広の裏から、抜き身の短刀が出てきた。
その切っ先を見た途端に、俺は小便をちびりそうになって逃げた。あんな鋭いものが体に入っていくのを見たら、俺はまともではいられなくなる気がする。
思い出すだけで、背筋が凍りつく。
友人は、手慣れているように見えた。
あれは、殺したと思う。
もしか、既に何人か殺しているのかもしれない。
怖ろしい奴だ。
惨めでならないので、飲んだ。
大して飲めもしないのに、目が回るまで飲んでしまった。
そんな状態でこれを書いている。
頭から消したい。何だって、こんなことを日記につけたのか。
それは、酔っているからだ。馬鹿だからだ。
明日、起きたら母屋に行って金を貰ってくる。とにかく、飯が食えないのが困る。飯なんて食いたくもないが、食わねば生きていけない。
薬と煙草と酒の備蓄分は、有意義な金の使い方が出来たのではと思っている。
少し寝ていた。頭痛がする。
文机を枕に寝ては風邪を引く。夏風邪は馬鹿が引くものだ。
俺は馬鹿だから、引いても仕方がないが、だからといって馬鹿にされるのは嫌なので、もう寝床に入る。
今度は、金があっても日記を書くようにする。
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