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日記
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しおりを挟むそういう話をしていると、好恵がこんな風に励ましてくれた。
「お兄ちゃんは、頭が良くて面白い人よ。優しいし、自分を駄目だって思ってるところも可愛いから私は大好きよ。あ、そうだわ、これも日記に書いて。二人だけの秘密よ」
聞くところによると、十二日に、学校の友達と御影山へ肝試しに行くらしい。
俺は、「好恵ちゃん、それは危ないから、いけないよ」と、止めたが、好恵があんまり可愛いので、強くは言えなかった。
あの子は、俺みたいなぐうたらな兄にも優しいし、お日様みたいな人だから、山の神様も怒らないだろう、と思った。
ユーモアという単語を何気なく書いたが、少し前までは、このユーモアという言葉を口に出してはいけなかった。先日の日記に書いたカーテンにしてもそうだ。英語の表現は、全部、駄目。
ふと、国民学校の高等科に通っていた時分を思い出した。高尚ぶって、「言論の自由がない」と隠れて文句を言う奴がいたな、と。
そいつは戦時中、度胸試しと言って、憲兵の前で英語を使って連れて行かれたんだった。そういえば、奴はどうなったのだろう。少なくとも、それ以降、学校では見なかったように思う。
大したこともないのに、高慢で自己中心的で、猿山の大将気取りのどうしようもない奴だった。
顔は影が差してまったく思い出せないが、ああいうのはいつか痛い目を見ると思っていた矢先にそういうことになった。
名前は、何というのだったか。思い出してみたが、幾つも思い浮かんだ。どれが奴の名なのか定かではないので書くのをやめておく。
しかし、憲兵か。懐かしい。俺は接することがなかったし、よっぽど馬鹿なことをする者でなければ関わることもなかったんだろうが、見掛けると緊張したことを思い出す。
それも、終戦後にはなくなった。たった三年で、世の中は変わった。
これからも変わっていくのだろう。
人を殺して煮て食べる。そういうことのない世の中になってもらいたい。
手が止まったので読み返してみたが、これは適当に書きすぎたと思って少し後悔した。
今日は、この程度にしておく。
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