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誘拐犯の独白劇~前編~

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 そういえば、まだ名前を言っていませんでしたね。遅ればせながら、自己紹介をさせていただきます。とはいえ、誘拐犯がそんなことをするのっておかしいですよね? 最初から殺すつもりでもない限り、そんなことはしませんものね。

 でも、心配することはありませんよ? そんなことはまったくもって考えていません。何故なら私はただの誘拐犯ではないからです。嘘偽りなく、好き放題に自分のことをペラペラと明かします。そうしないと気が済みませんからね。では自己紹介を始めます。

 私はムジナと申します。見ての通り女です。職業は取り敢えず自営業とだけ言っておきます。歳は結構いってます。ですが歳相応には見られません。自慢のように聞こえるかもしれませんが、コンビニで煙草を買うときに身分証明の提示をお願いされたりもします。煩わしいですが気分は悪くないですね。それだけ若く見られているということですから。

 ただ、私の免許証は偽造なんですよね。それだと三十半ばということになっているんですが、見た目より結構上ですよね。そろそろ作り直さないといけない時期にきている気もしますが、最近は若く見える人も増えていますからまだ大丈夫でしょうかね?

 ま、そんなことはどうでも良いですよね。

 よく、コスプレイヤーと勘違いされますが、この黒のスリーピーススーツは私の制服みたいなものですし、亜麻色の髪も生まれつきのものです。アシンメトリーのショートヘアも、ゴシック風のメイクも、主人から『舐められないようにしてね』というアドバイスを受けたからやっているというだけで、趣味ではないということを伝えておきます。決して日常的にこんな姿でいる訳ではないですからね?

 本当は糠床の状態に一喜一憂するような素朴な女なんですよ? 意外ですよね?

 そうですか。装いの効果が出ていると分かる感情の色が出て良かったです。私も安心しました。変化がなかったら何のためにこんな格好をしているのか分かりませんから。

 ヒールほどではないですが、パンプスも疲れるんですよね。サンダルを履きたいです。

 さ、そろそろ固くなった心がほぐれてきたところでしょうか?

 緊張していては、状況の飲み込みにも影響が出ますから、恐怖心が和らぐように取り計らったつもりですが、どうやら具合は良さそうですね。それでは本題に入っていきます。あ、畏まらなくて結構ですよ。折角の私の気遣いを無駄にしないでくださいね。
 
 
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