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23‐2 正木誠司、感謝する(後編)
しおりを挟むケルベロスワームの討伐は完了した。終わってみれば呆気ないものだった。
俺がストレージから出したバッカンで頭を圧し潰し、身動きが取れなくなったところを大剣の連撃で首を落として仕留めた。とんでもない大歓声だった。
いつにも増して偉く沸くなと思っていたら、それもそのはず理由はお金。
これまであまり聞いたことがなかったが、魔物の素材は結構高値で取引されるらしく、特にケルベロスワームはかなりの値段になるとのことだった。
「ちゅう訳で、しばらくストレージで預かってくれ」
「おう、わかった」
保存状態の良し悪しがあるとかで、しばらくは時間が停止する俺のストレージで預かることになった。その代わりに、俺はジョニーに取引を持ち掛けた。
「あん? あと九時間以内にウシャスを降りたいだぁ?」
「おう。どこでもいいから頼む。もちろん人が生きていける惑星な」
「正気かセイジ? 九時間以内だと選択肢は未開惑星しかないぞ?」
「未開惑星か。いいね。冒険と開拓は男のロマンだ」
ヨハンには正気を疑われたが、ジョニーは顎を擦って考え込んでいた。なにを考えているかを当てたら笑われた。単純に儲け話になると踏んだらしい。
その未開惑星には古代遺跡やダンジョンが存在し、原住民がいる。ジョニーが懇意にしている貴族が管理しているそうだが、ほぼ手つかずにしてあるのだとか。
「ふーん。その貴族が惑星ごと放置してる理由は?」
「んなもん、割に合わねぇからに決まってんだろう。投資しても見返りが出るまで何十年もかかるからな。原住民がいなきゃリゾート地にすることもできるが、いる惑星を領地として与えられても基本は放置一択だ。勝手に文明発達させてろってな」
惑星開拓と原住民の文明制御は領有する貴族に委ねられるが、下手に手を出すと法に触れるおそれがある為に迂闊に行わないのが普通だそうだ。
それに、ある程度文明が発達した相手でなければ接触してはいけないらしい。
大袈裟に言えば、お猿さんに核兵器のスイッチ渡すような真似をしちゃ駄目ってことだ。あっという間に文明が崩壊するからな。
ただ、接触というのは星間交流という意味で、個人がお忍びで降りるのは認められているとのこと。もちろん、文明に大きな影響を与えてはいけないという制限は付くが、ざっと聞いたところ人道倫理に基づいた行動をしていれば問題ないようだった。
「それなら、ダンジョン探索に行く奴は多そうだな」
「いや、未開惑星なんて降りる奴いねぇから」
傭兵の方が実入りがいいし、輸送艦を襲う盗賊の方が儲かる。
仮に戦闘になって死ぬとしても、こちらの人が相手なら銃撃で一瞬。艦隊戦だと砲撃で一瞬。だが未開惑星だとそういう訳にはいかない。なぶり殺しにされたり食われたりする。大型の魔物もわんさかいるそうだしな。
その上、臭い、汚い、気持ち悪いの三拍子が揃っている。余程の変わり者でもない限り、そんなところに好き好んで降りる奴はいないとジョニーは言った。
そうだな。俺は変わり者ってことだ。認めるよ。
というか、本当の目的は別にあるんだけどな。
恥ずかしくて言えないだけだ。
「ところでセイジよ、俺が考えてることどうしてわかった?」
「俺とジョニーは似てるんだよ。どっかしら」
「それはある。間違いなくある。無茶なところとか」
「わははは、ヨハンが言うなら間違いないな」
ジョニーが考えていた儲け話は俺が考えていたものと同じだった。俺が未開惑星で色々と見つけてそれをエルバレン商会に買い取ってもらうというだけ。
主に魔物の素材を求められた。これから商会の立て直しに躍起にならないといけないので、俺の存在は渡りに船といったところのようだ。
「それで、なんで九時間以内なんだ? なんかあんのか?」
「俺はエレスとポチがいりゃいいからな。後は察してくれ」
「ああ、ナツミを置いてくのか。僕もそっちの方がいいと思う。未開惑星の環境に適応するのは難しいだろうから。でもポチのメンテナンスはどうするんだ?」
「あー、そうだった。出るまでの間メリッサに習おうかな」
すっかり忘れていたが、エレスもいるしどうにかなるだろう。
ケルベロスワーム討伐後は、ほぼ無傷だった従業員たちが一階居住区に潜むサイレントバンシーを殲滅し、防衛地化を進めている。
それと並行して上の階にいる魔物の殲滅を行う為、上階の居住区へと向かった。まずは培養施設と養殖施設を押さえるそうだ。
両施設は今のところ魔物が無限湧きする原因だと推定されてるし、俺もそうとしか考えられない。先に潰しとかないと効率悪いからな。
それにしても、俺が食ったカレーに入ってた肉って。
深く考えるのはやめよう。
培養肉でもちゃんと美味かったし。わけのわからん急激な成長をもたらす成長促進剤なんかが使われていたとしても気にしたら負けだ。
それはともかく、ウシャス解放戦で何か問題があれば俺のところに連絡が入ることになっている。もっとも、修理が済んだパワードスーツ部隊が投入されているので、余程のことがない限りは大丈夫だろうと思っている。
流石にもう大型の魔物もいないだろうしな。まさか上からも追い立てられてきたなんてことはないだろう。昇降機使う奴の説明がつかなくなるし。
うん、ないない。
そういう訳で、俺は部屋に帰還した。
一体、一日に何回風呂に入らせるつもりなのかと思いながら本日三回目の風呂を済ませ、ヨハンに教えてもらった保湿液を顔に塗りたくる。
その後、着替えを済ませてベッドに横になる。途端に眠気が襲ってくる。
ホログラムカードで時刻を確認。十九時か。
くたびれたしこのまま寝てしまいたいが、時間は限られてるからな。
俺は大きな欠伸をしてからベッドから降り、部屋を後にした。
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