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22‐2 正木誠司、最大の危機(中編)

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 呼吸を整えながら、ホログラムカードで能力値を確認する。今の俺に足りていないものは何か。それを真剣に考える。様子見は十分だ。SPを振り分けるなら今。

 ────────

 セイジ・マサキ AGE 42
 LV 41

 HP 35/70
 MP 0/0
 ST 75/175
 STR 35  VIT 35
 DEX 5   AGI 40
 MAG 0 

 SP 5

 LIMITED SECRET SKILL
 機能拡張(ウェアラブルデバイスの機能を拡張し、設定で変更できる内容を追加する)
 機能拡張Ⅱ(ウェアラブルデバイスに新機能を追加する)
 機能拡張Ⅲ(ウェアラブルデバイスに新機能を追加する)

 ────────

 大量に魔物の群れを倒したことでLVが5も上がっていた。今の俺に必要なのは動体視力と俊敏さ。そして大剣をもっと軽く扱う筋力とそれに見合ったSTだ。

 能力値を増加させた分だけHPとSTを回復。STの回復速度も上がってデバフに対抗できる。燃費は悪くなったが構わない。俺の方が一枚上手だと思い知らせてやる。

 なんせ、こっちは腸煮えくり返ってんだからな。時間稼ぎは終わりにして頭の片方は貰うくらいの気でいくぞ。狡猾さで人に敵うと思うなよヘビ公が。

 さぁ、姑息にいこうか。やられた分、熨斗付けて返してやる。
 反撃開始だくそったれ。
 
 俺は回廊の床に大剣を突き立て、床に片膝を着いて肩で息をしてみせた。すると、オルトロスワームの二つの頭の相貌があからさまに細められた。

 そうだ、嘲笑え。俺を弱らせたと思い込め。

 オルトロスワームがじりじりと距離をはかっている。まだ来ない。知ってるぞ。距離感は掴めてる。突進は軽く後ろに頭を引く予備動作の後だ。

 ほらきたっ!

 タイミングどんぴしゃでオルトロスワームの左右の頭が同時に襲い掛かってきた。二つ同時は初めてだ。完全に仕留めにきたってことだろう。

 まんまと引っ掛かりやがって!
 俺は完全に見切ってるんだよ!

 これもまた、これまで散々見せられて慣れた速度に過ぎない。能力値が足りない状態で慣れたんだ。動体視力が上がった今はもう遅く感じられる。

 それに、どうやら察知する力も上がっているようだ。俺の移動した先に尻尾を叩き上げてくるのはわかってる。情弱相手に何度も何度も同じことやりやがって。

「馬鹿の一つ覚えがよおおおおおおおっ!」

 俺は大剣を振りかぶり、突っ込んできた右側の頭を一歩だけ下がってすれすれに躱す。と同時に力強く足を踏み込み、治りかけている首にむかって──。

「舐めんなクソがああああああああああ!」

 怒りと共に全力で振り下ろす!

 ザグッ──。

 鱗までは再生していない。あるのは肉だ。刃が食い込む感触から、力が押し留められた感触へと切り替わる。そこで後方に思い切り大剣を振り抜く。

 大量の血が噴き上がり、オルトロスワームが動きを止める。

「もう一撃だこの野郎おおおおおおおお!」

 引き抜くと同時に振り上げていた大剣を、体ごと叩きつけるように振り下ろす。踏み込みで床がバキッと鳴る。渾身の力を込めての一撃が傷口を裂く。

 バヅンッ! と骨が断ち切れる音がした。もう片方の頭がもたげられると同時に、皮一枚になった頭が重みでブツリと千切れて落ちた。

 ごろんと転がる頭はまだ動いている。
 何が起きたのかわからない。そんな顔をする頭に、俺はすかさず大剣を振りかぶりながら接近し、真正面からその脳天に一撃を振り下ろす。

 べギャッと脳天が圧し潰され、弾け飛ぶ鱗と共に勢いよく左右の目玉が飛びだした。だらだらと眼窩から血を流す以外に動きはない。完全に息の根を止めた。
 
「ざまぁみやがれっ!」

 俺は潰れた頭に足を載せ、呆然とこちらを見つめるオルトロスワームの残った頭に、親指を立てて首を切るジェスチャーを見せつける。

「覚えとけヘビ公が! 人より狡猾な生き物なんざいねぇんだよ!」

 騙し討ち大成功。褒められたやり方じゃないが、それは相手も同じ。俺の正義感は目には目をが適用されるようだ。一切抵抗なく行えた。

 予想通り、尻尾の攻撃はなかった。体勢的に無理があるし、自分の頭近くを尻尾で叩き上げるなんて真似はしたくないだろうからな。
 これまでは能力値が足りてなかったから仕方なく距離をとって避けてたが、ここまで見切れるようになれば完全にこっちのもんだ。

「さぁ、もうやりたい放題させねぇぞ。次はお前だ」

 剣先を向けて挑発してやる。すると残った頭が憎々しげに俺を睨みつけてきた。が、何を思ったか不意に横を向き、居住区の奥に向かって移動を始めた。
 床を舐めるように素早く這い、大口を開けて進んでいく。擦り潰された肉塊と血が跳ね上がる。通った先にあったはずの魔物の死体が減っている。

「まさか、食ってるのか?」

 居住区の奥に逃げ込んでいた魔物の群れが蹂躙される。血の饗宴だ。オルトロスワームは貪るように食らい続け、胴体がぶくぶくと膨れていく。
 その光景を怪訝に思いながら見ていると、鎌首をもたげたオルトロスワームが突然ピタリと動きを止めた。魔物の群れの痕跡の中で、ぶるりと身震いする。
 
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